ヘミングウェイ全短編1『われらの時代・男だけの世界』に収録されている全30作品をひとことで斬っていこうと思う。もちろんストーリー紹介はなし。独断と偏見で☆☆☆☆☆評価点を付けてみた。もしかしたら過去の記事の評価と一致しない作品があるかもしれないが、今の気分を反映していると思ってほしい
『スミルナの埠頭にて』☆☆
臨場感もクオリティもあるが、背景がよくわからず難解。ヘミングウェイビギナーはこの短編から読まない方がいい。
『インディアンの村』☆☆☆☆☆
『雨の中の猫』と同時期に書かれた初期の名作。医者の父と共に暗闇の中、ボートを漕ぎ出す。
『医師とその妻』☆☆☆☆
押しつけのない端正な文章が想像力を喚起する。ヘミングウェイの魅力が凝縮された一篇。
『ある訣別』☆☆☆☆
若い男女の別れ話を描いた切ない短編。恋人は、月光に照らされた湖上をボートで去ってゆく。
『三日吹く風』☆☆☆☆
「ある訣別」の続編で、結婚を嫌悪する若者が描かれている。ヘミングウェイらしいラストが秀逸。
『ファイター』☆☆☆
骨太で男の悲哀が漂う。それほど魅力的な短編とは思えないが、不思議と長く心に残る。
『ごく短い物語』☆☆☆
戦時中のイタリアで出会った7歳年上の女性からの手紙。著者にとっての人生最大の失恋が描かれている。
『兵士の故郷』☆☆☆☆
必読の名篇だが、この虚無感はなかなかしんどい。弱っている時に読むとすっかり滅入ってしまう。
『革命家』☆☆☆
わずか2ページの中に、芸術、政治、宗教が詰まっていて手強い。でも、なんだか魅力的。
『エリオット夫妻』☆☆☆
静かに深まっていく夫婦間の溝が描かれていて、寂しい気持ちになる。薄暗い感じの話だ。
『雨の中の猫』☆☆☆☆☆
短編選びに迷ったらまずこれから。決してマッチョではない、ヘミングウェイの真の魅力を堪能できる。
『季節はずれ』☆☆☆
身籠った妻とそれを喜ばない夫を描いた陰鬱な短編。似た主題の『雨の中の猫』ほどは良くない。
『クロス・カントリー・スノウ』☆☆
家庭におさまることや父親になることへの拒絶がテーマ。エゴイスティック、冷酷、読後感も悪い。
『ぼくの父』☆☆☆☆☆
隠れた超名篇。騎手の父と行動を共にする少年。胸が苦しくなるほどの読書体験をくれる。
『二つの心臓の大きな川』☆☆☆☆☆
ただ淡々と野営地でテントを張り、鱒を釣って食べ、毛布で眠る。でも、それは清澄な自己回復の儀式だ。
『北ミシガンで』☆☆☆
著者にしては珍しく露骨な性描写があるが、実は女心をデリケートに描いた良質な短編。
『敗れざる者』☆☆☆
緻密な闘牛の描写を重ね、不撓不屈の精神を描いている。やや単調であり、この手の短編には食傷気味。
『異国にて』☆☆☆
戦争の話ではあるが、この短編のベースには当時のヘミングウェイを悩ませていた女性問題がある。
『白い象のような山並み』☆☆☆☆☆
きめ細やかな女性的感性が光る。推敲によって結晶化された、氷山の理論を実践する名篇。
『殺し屋』☆☆
グッとくるものがない。フレンチのシェフがイタリアンを作ったような違和感を覚える。
『ケ・ティ・ディーチェ・ラ・パートリア』☆☆☆
タイトルがいまいち。ファシズム憎しの思いで書いた、不愉快な出来事が連続するイタリア珍道中。
『五万ドル』☆☆
ハードボイルドなボクシングものだが期待するほど面白くない。借り物の服という印象。
『簡単な質問』☆☆☆
著者がよく扱う同性愛がテーマになっている。癖が強くてウェット。好みは分かれそうだが、完成度は高い。
『十人のインディアン』☆☆☆☆☆
恋人に裏切られ傷つく少年の話。ラストは何度読んでも素晴らしい。これぞヘミングウェイ。
『贈り物のカナリア』☆☆☆
別離を決めた夫婦を乗せて、ヨーロッパの美しい景色の中を走る特急列車。明暗が混在する味わい深い一篇。
『アルプスの牧歌』☆☆
美しい舞台と清涼感のある文体ではあるが、登場人物がどこか嫌味で、不快な気分にさせられる。
『追い抜きレース』☆
欲望を制御できないジャンキーとその雇い主の会話が中心。題材に魅力がないし、イライラさせられる。
『今日は金曜日』☆☆☆
イエス・キリストの磔刑を独自のアングルから描いた、想像力溢れるユニークな作品。
『陳腐なストーリー』☆
1920年代の雑誌「フォーラム」のパロディなので現代人には理解できない。シニカルで後味も良くない。
『身を横たえて』☆☆
時間を超えていくつもの記憶が入り混じる複雑な短編。しかも重苦しさに包まれている。