「ファイター」 アーネスト・ヘミングウェイ

「ファイター」の原題はThe Fighterではなくて、The Battlerだ。どちらも戦う人のことだが、ニュアンス的にどう違うのか。私の英語力では正確なことは言えないが、ファイトは喧嘩、バトルは闘いという感じだろうか。それとも、ボクサーのことをアメリカではちょっとスラング的にバトラーって呼んだりするのだろうか。ああ、もどかしい。。。

「ファイター」は「われらの時代」に収められた初期の短編だ。いわゆるニック・アダムズもので物語の舞台はアメリカとカナダの国境付近(五大湖の近く)、ヘミングウェイには馴染み深い土地であるミシガン州だ。

無賃乗車した貨物列車から叩き落されたニックが、線路をとぼとぼ歩いていて焚き火を発見する。そこには白人の元ボクサーと連れの黒人がいた。3人で食事をしていると、元ボクサーは突然、暴力的になった。そして、怯えるニックへと向かってきた・・・。

なんとも野太くて粗野な味わいの短編である。

1962年のアメリカのドラマでHemingway’s Adventures of a Young Man(邦題「青年」)の予告編がYouTubeにあったので載せておく。この作品は、ヘミングウェイのニック・アダムズもの10短編を再構成して作ったドラマとのこと。予告編の中で、ニックが目を殴られて列車から放り出されるシーンや元ボクサーとのやりとりなど「ファイター」に描かれた場面が少しだけ出てくる。ニック役は、ウエストサイドストーリーの主役の一人、恋に落ちる真面目な青年を演じていたハンサムくんだ。ボクサーの役は、驚くことにポール・ニューマンらしい。とても大スターが演じるような役ではないと思うのだが、演技派としてのチャンレンジなのだろうか。動画を貼っておいてなんだが、読む前には見ない方がよいかもしれない。B級なイメージができあがってしまうので。

で、「ファイター」という短編は何を語っているのだろう?豹変して暴力的になる元ボクサーと、猛獣使いのようにそれをコントロールする黒人。彼らも人生という列車から道半ばで放り出された人間たちである。この作品のタイトルは「ファイター」だ。どこに生きていようと根っからボクサーである男の末路をスケッチしたのかもしれない。こういう人生もあるのか、という感じだろうか。彼らはそこに留まるしかないが、ニックは歩いて先へと進んでいく。振り返れば、遠くに焚き火が見える。人生の悲哀や重さを垣間見たが、若きニックには未来があるのだ。

久しぶりの解題のせいか、なんだかキレが悪いな。いや、もともとこの程度なのかな。

今日はここまで。

われらの時代・男だけの世界 (新潮文庫―ヘミングウェイ全短編)

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