「ガゼボ」 レイモンド・カーヴァー

モーテルの管理人をしている夫婦の、修復不可能な関係を描いた短編だ。とにかくカーヴァー色の濃い題材で、一行目から最悪の空気が充満している。あまりに最悪すぎて、読みながら何度も笑いが込み上げてきたほど。酷過ぎて笑うしかないのだ。

簡単に言ってしまえば、浮気夫とそれを許せぬ妻の話。すでに信頼関係は崩壊しており、夫婦としての未来はない。そこに大量のウィスキーが加わり、二人ともグダグダの酒地獄で這いつくばっている感じだ。

嫌なことがあると酒でごまかす。心機一転やり直そうと景気づけに酒を煽る。壁にぶつかり、また酒に逃げる。段々と仕事の手を抜くようになる。客足は離れていく。生活が立ち行かなくなる。

何かあるたびに酒。何もなくても酒。そうしているうちに人生の良い流れは枯れてしまい、身も心も蝕まれている。

「ガゼボ」はそういう夢のない話だ。

ちなみにガゼボというのは西洋風のあずまやのことで、たまに公園などで見かける屋根と柱だけの建物のこと。アメリカだと、富裕層の家の庭にあったりするようだ。この短編の中では、二人が歩めなかった真っ当な人生の象徴として登場する。

↓こういうやつ。

この短編、まったく光が描かれていないが、どこか軽妙でチャーミングだ。モーテルの管理人という設定も新鮮。「えっ、終わりなの?」と思わず声が出てしまったほど斬新なエンディングも印象に残った。まさに短編の名手といった感じ。

私の知り合いにも毎晩飲まずにいられない酒好き(依存症?)が何人かいるが、仕事が上手くいっている人は少ない。飲酒によって時間を奪われる、怠惰になる、夫婦仲が悪化する、脳が萎縮する、睡眠の質が下がる、翌日に疲れが残る、など影響はいろいろだろうが、私には彼らがゆるやかな長い坂を下っているように見える。何より本人がそのことをあまり深刻に受けとめていないことが、なんか残念だなぁと思ったりもする。

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