「林檎の中の虫」 ジョン・チーヴァー

絵に描いたような幸せな家族に対して、あの幸せはきっと見せかけのもの。裏があるに決まっているさ。この先だって順風満帆に人生が運ぶはずはない。

この短編では、他人の粗ばかりを探し、幸せや成功を信じない心の卑しさが軽妙なタッチで描かれている。

「完璧な一家に見えるけど、問題を隠すために必死に努力しているだけだろ。中はドロドロに決まっている」といった近所の噂話やワイドショー的な話だけで全編が構成されている。

ネガティブな人の話ね、と片付けるのは簡単なのだが、そういうネガティブさが自分の中にはないときっぱり否定できる人はそうはいないだろう。決めつけるつもりはないが、皆さんも成功者のスキャンダルは嫌いじゃないでしょ?登りつめた人が転げ落ちていく姿をちょっと見たいでしょ?

原題はThe Worm in the Apple。見た目の良いものには裏がある、といった意味だろうか。アメリカでは誰もが知っている慣用句なのかな、どうなのだろう。

もともと林檎には健康、健全といったプラスのイメージが強いだけに、悪影響の及ぼす人に対してBad Appleなどと逆に批判的な言葉としても使われたりする。

この短編、正直あまり好きではない。さもしい心が描かれているからとかそういうモラル云々ではなく、取るに足らないどうでもいい話だなと思ってしまった。何かやりたいことがある人や忙しい人って、そもそも噂話に関心が向かない。思考がネガティブになっている時、多分その人は暇なのだと思う。

他人の悪いところを見ない立派な人間になろうとするより、他人の悪いところなど気にしてられないほど忙しく暮らそう。そう考えた方が良い気がしてならない。

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