「ランキンズ岬への道」 アリステア・マクラウド

こつこつと丁寧に情景描写を積み重ねていくことで、読者の中に重厚な世界を醸成していくタイプの短編だ。けっして浮き足立つことなく、俗に流れることもなく、とても慎み深い。

今回、久し振りにアリステア・マクラウドの短編集を手に取ったが、良い意味で時代との乖離を感じる読書になった。

好きなコンテンツしか見たくない!我慢なんて大嫌い!前置きはいいから早く見せて!もっと情報をぎゅうぎゅうに詰め込んで!とにかく退屈させないで! 私も含めて、刺激とスピードばかり求める今の時代に、マクラウドはまったくフィットしない作家だ。今の時点で売れている小説とは言えないが、この先ますます読まれなくなっていくだろう。

こういうことを書くと非難しているように思われるかもしれないが、作品のクオリティの話をしているのではなく、とにかくデジタルな時代と合っていないのだ。

で、「ランキンズ岬への道」がどういう話かと言うと…

26歳の「僕」が、岩石から成る岬の果てに独りで暮らす祖母のもとを訪ねる。過去にいくつもの身内の死を受け止めてきた祖母が、長い人生を通してどのような考えに至ったのかを知るために。生きる意味を知りたい。死を迎える強さを見つけたい。都会に生きる「僕」以外の親族たちは、死について真剣に考える心など持ち合わせていない。誰かのために苦労することを避けながら生きている。損得だけで物事を判断し、システムを頼ってただ楽に生きようとしている。。。

といった重い主題の短編だ。言葉は静謐だが、たぎるような熱いトーンに全編が包まれている。マクラウドの他の作品にも共通しているが、超がつくほど暗い。深刻で、陰鬱で、息が詰まる。淡々と続くモノトーンの情景描写に、私もはじめのうち我慢の読書を強いられた。短編であるにもかかわらず、途中で投げ出しそうにもなった。

でも、最後まで読んで良かった。本当に良かった。自分がいかに大事なことを忘れていたのかに気付かされ、数時間経った今もその余韻はまったく薄れていない。

人生を楽に生きようとしてはいけない。少しくらい大変だって、そんなことは問題じゃない。読後に心底そう思えた。

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