原題はThe Lie。カーヴァーには『嘘つき』という短編もあるが、それとは別の作品。
妻の嘘を題材にした奇異な印象の掌編で、「女のしたたかさ」と「男の情けなさ」が惑わすようにあやしく描かれている。矛盾を平気で受け入れられる、女性の逞しさとバラバラ感が妙に怖い。
妻は夫に、あの女の話はデタラメよと訴える。ろくでもない嘘つき女よりも妻である私の話を信じなさいと強い調子で諭す。夫は、何が真実なのか確信を持てずに揺れている。ふと、日常的に嘘ばかりついていた学生時代の友人のことを思い出し、妻のことを信じようという気持ちになる。すると妻は急に両手で顔を覆い、私が嘘をついていたとそれまでと真逆の告白をする。動揺する夫を前に、妻は別人のように脱力し、まるでペットを可愛がるかように夫を性的に誘惑する。
なんとも奇妙な話でしょ?この物語の中で、夫は常に妻のコントロール下にある。支配されていると言ってもいい。高圧的な支配ではなく、手の上にのせられ操られている感じだ。男って理屈ばかり言うくせに真実は何も見えてないから、騙すのはとても簡単。そういった女性の怖い一面がよく描かれている短編だと思う。
カーヴァー作品は扱っているテーマが重く、出口の見えない閉塞した話が多いが不思議と暗さを感じない。中には鬱々してしんどい作品もあるが、大抵は気取りがなく、乾いていて、どこかあけすけな空気が漂っている。つまり、笑えるのだ。笑えるから他の作品も読みたくなるし、再読したくもなる。シリアスなだけでは、たとえ内容が立派であっても魅力に乏しく親しみが持てない。やはり、ユーモアは大事なのだと思う。作家だけでなく、教師も営業マンもインストラクターも、知識だけでなくユーモアを学ぶべきではないだろうか。まあ、センスのない人には無理な話かもしれないが。
結論:重い主題でもカーヴァー作品は笑える。世の中、ユーモアが過小評価されている。