『漂泊者』 ジム・トンプソン

「初めに結論を言え」は田中角栄の有名な言葉だが、今回の記事でまず初めに伝えておかなければならないことがある。

それは・・・

わたくし、この『漂泊者』を読んでおりません!

まったく読んでいない訳ではなく、約260ページのうち50ページまでは読んだ。

最後まで読まずに感想を書くのか?と呆れられそうだが、「これ以上は危険」と判断して勇気をもって本を閉じた。

知らない方のために説明しておくと、ジム・トンプソンはクライムノヴェルの極北に君臨するカルト作家だ。ハメットとかチャンドラーとかパーカーといった基本的にロマンチックなハードボイルド作家とは似て非なり、真反対の存在だ。犯罪者目線で書かれていて、主人公はほぼ例外なくサイコパスかソシオパス。毒素はやたら強いが、一度味わってしまうと他の小説が読めなくなるほど中毒性は高い。かなりの数の狂信者が存在すると思われる。でも、彼らはそれを公言せずに隠している。とにかく成人前の子どもには読ませてはいけない。大人であっても、未読であるなら未読のままでいることを薦める。そういう作家だ。

ちなみにソシオパスというのは、無責任で恐怖を感じない社会病質者あるは反社会的性人格障害と呼ばれる人のこと。サイコパスのように先天性でなく、育った環境や幼児期のトラウマなどを原因として発症するらしい。

トンプソン作品は映画との相性が良く、ヒット作も多い。

映像を貼っていないが、マックィーンの『ゲッタウェイ』もそう。

読みかけの小説を途中で投げ出すと、いつも自己嫌悪に襲われる。自分の堪え性の無さを責めてしまう。今回も途中で断念したくはなかったのだが、毒の強さに耐えきれずタップした。粘ってはみたものの、吐き気をもよおしギブアップするしかなかった。

私はジム・トンプソン初心者という訳ではなく、以前は愛読していた。『ポップ1280』『ゲッタウェイ』『取るに足りない殺人』『内なる殺人者』『アフター・ダーク』『失われた男』『グリフターズ』『残酷な夜』『深夜のベルボーイ』などを買って読んでいた。ひと昔前の話ではあるが、ハマっていたと言ってもいい。

でも、今回は無理だった。メンタルが健やかになったのか、それとも骨抜きになってしまったのか?

まあ、おそらく元々開放的なものが好きなのだと思う。若い頃にダークヒーローに傾倒したものの、本来の好みに戻ったということだろう。三つ子の魂ほにゃららだ。このブログを読んでくださっている方はお気づきかと思うが、基本的に暗い短編を批判し、明るい短編を絶賛する記事が多い。『花畑短編小説解題』ってタイトルでもいいくらいだ。

今回、『漂泊者』の内容について一切触れていないが、悲惨な流浪の日々を描いた自伝的小説で、著者の作品の中では比較的マイルドと言われている。(それでも読めなかったが)

ジム・トンプソンが気になったという方は、ギャンブル同様に依存リスクがあるので、自己責任で手に取って欲しい。

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