原題はNight School。結婚生活が崩壊し、妻は出て行ってしまった。クルマも持って行かれた。職を見つけることもできず、今は両親が暮らす地下アパートの廊下に簡易ベッドを置いて寝ている。父親は森の仕事に就いていたが怪我をして今は無職、見舞金も使い切ってしまった。母親は深夜までウエイトレスとして働いている。バーでひとり、なけなしの金でビールを飲んでいると、四十前後の二人組の女性が話しかけてきた。今から、酒好きのパターソンという教師の家へ一緒に行こうと誘われるが…
といういかにもなカーヴァー・ワールドが展開されている。コーエン兄弟の映画で観たような滑稽さがあり、救いのない話ではあるが個人的には嫌いではない。というかかなり好きかもしれない。中年女性たちの薄っぺらい描き方が秀逸で、主人公との間抜けなやりとりも笑える。言ってしまえば、うだつの上がらない落伍者の取るに足らないエピソートなのだが、どこか骨太でハードボイルドな味わいがあり、魅力的な短編になっている。読み出してすぐ、リアルなカラー映像が頭の中に喚起され、改めてカーヴァーの表現力の凄さを知った。
約半世紀前に書かれた短編だが、今もアメリカの小さな町にはこうした閉塞感や虚無感を抱えて生きる人がいるのだろうか。読後に寂しい余韻が残った。