妻の着替えを夫が家の外に出て窓から覗く、という奇妙なプレイを楽しむ隣人夫婦。語り手である「私」は、その行為を暗くした部屋から熱心に覗き見て、抑え切れないほどの怒りを覚える。という話だ。「私」は隣人の妻をクズ呼ばわりするが、「私」自身も覗きにハマっているという二重構造が面白い。
隣人夫婦の奔放な(自由な)性行動への激しい嫌悪は、異様なまでに執着している裏返しと見ることができる。台所で見つけた蟻の列にスプレイを吹きかける場面があるが、自分の意識の中に侵入してきた奔放な性の欲求を追い払おうとする心理とも読める。
つまり、関心があるから批判する。まったく興味がなければ悪口など言わない。我々が「あの人のこと嫌い」という場合、羨ましさや妬みの気持ちが根底にあることは少なくない。あるいは、認めたくなくても自分と似ている相手だったりする。
原題はThe Ideaで、訳者の村上春樹氏は悩んだ末に『人の考えつくこと』という邦題を与えた。The Ideaはなんだかピンとこないし、カーヴァーにしては面白味に欠ける。漠然とした原題に比べ、邦題は良い感じだと思う。
余談だが、変わった性的嗜好を持っている人って、成功者が多いというイメージがある。(あくまでイメージね) 欲望に素直な人だから成功できたのか、成功した人はいろいろストレスを抱えているからなのか、そのあたりはよくわからないけれど。