「大聖堂」 レイモンド・カーヴァー

「大聖堂(カセドラル)」という邦題の付けられた、これぞマスターピースという珠玉の短編。これまでに3度は読んでいるのでストーリーは細部まで頭に残っていたが、それでも心を揺さぶられた。なんとなくヒューマニズムが鼻につき、むずがゆい印象を持ってはいたのだが、自分が年齢を重ねたこともあり味わい深い読書となった。

ちなみにカセドラルとはキリスト教の教会堂のこと。

それにしてもこの作品の完成度は凄い。短編小説の一つの到達点という気がする。

あらすじはあえて紹介しないが、大人になりきれない甘えた中年男性が主人公で、例の如くそのダメさにやたらリアリティがある。カーヴァーを読む時によく感じることだが、「ねえ、アンタだって似たようなものでしょ?」と見透かされているような居心地の悪さを覚える。かつて妻が世話になった盲目の男性客に対して思いやりのない振る舞いをしてしまう夫。その共感性の低さが、大きな声では言えないが他人事に思えない。(私も子供のように拗ねた面が出てしまう時がたまにある…)

訳者の村上春樹氏もあとがきに書いているが、そのダメ夫が理性ではなく身体性で盲人とリンクするラストシーンは本当に感動的だ。これから読む方のためにこれ以上の説明はしないが、中高年男性は絶対に読んだ方が良い。構成も会話も流れもパーフェクト、でも単にリアルで面白い短編に終わらない。カーヴァーの力量と短編小説の可能性を体感するのにこれほど適した作品はないと思う。


大聖堂 (村上春樹翻訳ライブラリー)

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