見知らぬ男とイチャつく65歳の母親。浮気しているアルコール依存症の妻。妻の浮気相手の失業男(最初の妻に銃で撃たれ片足を引き摺っている)。昼間からウイスキーを飲み54歳で急死した父親。
すべての登場人物が正道から外れている、そんなカーヴァー色の強い短編だ。
物語は「私」の一人称で語られる。
物語といっても、ダメダメな人物たちを羅列しているだけ。ややまとまりに欠けた印象を受けるが、敵意と共感が入り混じったような奇妙なトーンがちょっと味わい深かったりもする。
何を主題とした短編なのか今ひとつよくわからなかったが、酒に人生を狂わされた人たちを描きたかったのだろうか。心身をアルコールに支配され、老いが進むように少しずつ覇気を奪われていく人たち。人生の行き詰まり感が伝わってきて、読みながらしんどさを覚えた。
私はビールを週に1、2杯飲むが、アルコールとは一定の距離を置いてきた。酒が嫌いなわけではなく、依存が嫌いなのだ。アルコールだけでなく、ギャンブルにしても、ゲームにしても、意思の力で制御できるうちに対象との距離をとろうという意識が強く働く。自分で言うのもなんだが、常に慎重で臆病だ。HPS(Highly Sensitive Person)なのかもしれない。酒浸りを主人公にしたカーヴァーの短編を読んでいると嫌悪感と恐怖感が沸き上がってくる。
普通に楽しんでいたつもりが、いつの間にか制御不能になり、自分の意思でやめることができなくなる。他人事と思って油断していると、依存によって多くのものを失うことになる。元の道にはもう戻れない。
私のまわりに依存症を疑いたくなる人は何人もいる。おそらく、あなたのまわりにもいるだろう。依存症になるのは、思っているより何倍も簡単なのだと思う。