「何か用かい?」 レイモンド・カーヴァー

ワーキング・クラスのだらしない夫婦の一夜のエピソードが描かれている。

色仕掛けでマイカーを少しでも高く売りつけようと出掛けていく妻。「その場の流れで一線を超えてしまわないだろうか?クルマは高値で売れるだろうか?」と落ち着かぬ気持ちで妻の帰りを待つ夫。規律がなく、品行が悪く、怠惰。まるでコーエン兄弟の映画のワンシーンを観ているようで、かなり笑える短編だ。現実のアメリカには、この二人と似たような夢も希望もない男女がおそらくはたくさんいるのだろう。

知性とか気品とか、そういった凛としたものと無縁の人間しか出てこないが、短編としてはとても魅力的で、不思議と文学の力を感じた。

原題は、What Is It?。直訳すると「それは何ですか?」となってしまうが、口語では「何か用かい?」「どうして欲しいの?」みたいなニュアンスらしい。「何か用かい?」 ってセリフが実際に作中に出てくるのだが、それをタイトルにするあたりのズラし方もどこか間抜けで笑える。

カーヴァーが描くラギッドでユーモラスなムードに、この頃何故かとても強く惹かれる。偉そーなところも、小難しいところも、神経質なところもなくて、でもエンタメに終わらない深みがあって、理屈抜きに読むのが楽しい。晩年(とはいっても50歳で他界しているのだが)の作品は、ちょっと重過ぎて辛くなってしまうが、初期の作品は気軽に手に取れる。

ヘミングウェイの影響を強く受けたという省略法についてもいずれ記事にしたい。有り難いことに今は仕事が忙しいので、時間ができた時にでもゆっくり楽しみながら考察できたらと思う。

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