『アラスカに何があるというのか?』 レイモンド・カーヴァー

「この短編の世界では暮らしたくない」これが読後の率直な感想。暗くて惨めで息が詰まるような陰鬱さに作品全体が覆われている。

『アラスカに何があるというのか?』(原題:What’s In Alaska?)は、近所に住む二組の夫婦が水パイプで大麻を吸ってグダグダと会話をするだけの話で、特にストーリーと呼べるものはない。どうでもいいことで大笑いしたり、言ったばかりのことを何度も聞き返したり、ほぼほぼラリった会話で構成されている。

ただし、そこには隠された意味が…

ジャックとメアリの夫婦は、スーパーでつまみを買ってカールとヘレンの家を訪ねる。ジャックは、メアリがカールと浮気していることを直感的に察知する。U-NOバーというキャンディバーの商品名が何度も出てくるが、これは形状的におそらくは性的メタファーとして使われていると思われる。ちなみに、アメリカではスニッカーズみたいな棒状のチョココーティング菓子をキャンディバーと呼ぶらしい。

その浮気を踏まえると、ジャックが買ったばかりの靴にクリームソーダをこぼされてしまうシーンも絶望の暗示と読める。猫がネズミを咥えて家に入ってくるグロテスクなハプニングも、惨めさの比喩と捉えることができるだろう。そして、ラストの暗闇で光る一対の目が読後に不穏な予感を残こす。

とにかく暗い気持ちにさせられる話だ。それがカーヴァーでしょ、とわかっていてもやはり滅入ってしまった。体に悪い短編だ。カーヴァーという人は、こういった陰鬱な思いにどっぷり浸りながら暮らし、それを仕事にまでして直視しつづけていたのだから、長生きはできないだろう。ポジティブシンキングってあまり知的なイメージではないけど、やはり生きる上で大事なことなのかもしれない。

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