『破壊者たち』 レイモンド・カーヴァー

読み始めてすぐ、ヘミングウェイの短編に酷似していると感じた。多くを語らず、行間を読ませることで危ういムードを醸し出す例の氷山スタイルだ。しかし、読み進めていくうちにヘミングウェイ色は薄らいでいき、カーヴァー色がぐっと濃くなっていった。八分の一の氷山理論のような大胆な省略はなく、心理描写は意外と多い。カーヴァーがミニマリスト(簡素派)と括られることを嫌い、自身をプレシジョニスト(精密派)と呼んでいたのがわかるような気がした。まあ、それでもヘミングウェイの影響を強く受けていることは間違いないと思うが。

原題はVandals。破壊者のことだが、ならず者というネガティブなニュアンスが強い。Destroyerも破壊者だが、暴力的な壊し屋という感じかと思う。

4の字固めを得意技にしていたザ・デストロイヤー

『破壊者たち』は、いかにもカーヴァーが好みそうな二組の夫婦の何気ない会話で構成された短編なのだが、語られない言葉によって少しずつわだかまりや疑念が顕になっていく。平穏な暮らしの裏に潜む闇が炙り出されていくようで怖い。

筋をざっくり説明すると、この二組の夫婦のうち、主人公であるニックだけ付き合いが浅い。ニック以外の3人は学生時代からの親友で、さまざまな経験を共有している。ニックの妻ジョアンは再婚であり、前夫ビルのことも3人にとっては特別な思い出として忘れることができない。ニックは、ビルからジョアンを奪った。誰も口にはしないが、3人とってニックはある意味で破壊者なのだ。

前述したが、ヘミングウェイと比べると心理描写が多く、全体的にどよーんとして重苦しい。この短編に限ったことではないが、室内が舞台なので閉塞感もある。

カーヴァーは、飾らなくて、骨太で、嘘をつかないが、内向的で暗い。ヘミングウェイは、気取り屋で、神経質で、嘘つきだが、外交的で明るい。(どっちのファンにも怒られそう)

カーヴァーは地味だけど人に愛される。ヘミングウェイは人として問題があるが抗えないスター性がある。

皆さんなら、どちらになりたいですか?

愚問だね。二人とも精一杯自分らしく生きたのでしょう。自分らしく生きることこそが大切だと思う。

『破壊者たち』は生前未発表の短編だが、充分にクオリティが高く、再読したい魅力的に溢れている。個人的な好みとしては、もう少しタイトにしても良いのかなと思った。会話の中で語られる過去のエピソードがやや多いので。(偉そうにスミマセン)

でも、カーヴァーのおかげで読書が楽しくて仕方ない。ほんと、有難いことです。

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