『デニムのあとで』 レイモンド・カーヴァー

気が滅入るような閉塞感のある話なのだが、一気に読ませる魅力があり、奇妙な怖さを持っている。ストーリー自体はシンプルなのだが解釈は難しい。

主人公は、アメリカのどこにでもいそうな中年夫婦。二人の愉しみは、地元のコミュニティセンターで毎週催されるビンゴ大会に出掛けること。その日、少し遅れて会場に着くと、いつも二人が座る席にはデニムの服を着た若いカップルが陣取っていた。夫はこの若者たちのファッションも振る舞いもすべてが気に入らない。若い男がズルをしているのを見つけて憤るが、妻はあの連中と関わらないようにと諭す。妻は化粧室で深刻な病気の兆候に気づき、夫にそれを告げる。家に戻って妻が眠った後も、若いカップルへの苛立ちは収まらない。

人生の行き詰まりを描いた胸が苦しくなるような話だ。堅実に規範に従って生きているのにツキに見放され、ルールを逸脱してテキトーに生きている若者の方が得をしているという理不尽。

原題はAfter The Denimだが、元々は『コミュニティ・センター』というタイトルであったそう。After The Denimとは何を指すのか? デニムの若者に会った後、夫が客間で編み物をする場面で物語は終わる。アメリカの男性は一般的に編み物をするのだろうか。編み物はなにかの比喩なのだろうか。例えば薬物などの。

転覆した船の上で大きく手を振る男のイメージも出てくるが、人生の転覆のメタファーなのか。それとも世代交代を暗示しているのか…。

元となった『コミュニティ・センター』を読めばそのあたりの疑問は解消されるのかもしれないが、書いていないことが多いため、ヘミングウェイの短編のように想像力を求められる。

それにしても、妙にリアルだし、夢も希望もないし、うらがなしいし、中高年にはキツい短編だ。

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