『父親』 レイモンド・カーヴァー

とても短い話だが、奇妙なクイズを出されているような気分になった。Aがこう言いました。Bはそれを否定しました。Cは別の意見を言いました。Dはそれを無視しました。Eは顔面蒼白になりました。さて、真相は何でしょう?みたいなクイズを。

『父親』はかなり初期に書かれた短編らしいが、カーヴァーらしい不穏さに覆われている。ざっくりいうと、うまれたばかりの赤ちゃんを家族で取り囲み、誰に似ているかという会話をするだけの話だ。ハートウォーミングな絵を思い浮かべるかもしれないが、そこに描かれているのは疎外や喪失であり、温かいどころかマイナス百度くらい寒い。

正直、あまり好きなタイプの短編ではない。(積極的に好きという人はいるのかな?) 読み直す気になれなかったので解釈に自信はないが、一人だけ離れた場所にいるこの父親は、おそらく祖父の子どもではない。(合ってるかな?) この短編の原題はThe Fatherであり、The Babyではない。会話の中心に赤ん坊がいるが、この作品が描き出す闇の中心にいるのは孤立した父親だ。そこには救いもなければ一筋の光もない。

漠然とした言い方になるが、カーヴァーはこういう闇を書かせたら右に出る者がいないくらい巧いと思う。慣れ親しんだ得意なことを仕事にしたら成功すると言われるが、闇を上手に描けるのは、やはり闇の住人ということなのだろう。カポーティの記事でも似たようなことを書いた気がする。。。

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