ヘミングウェイと形容詞について

ヘミングウェイの文章は、形容詞がほとんど使われておらず、一文が短く、感情が抑制されてストイックなどと言われる。

実際のところは、他の作家と比べて少ないとは思うが形容詞は使われている。それが具体的で明快であれば普通に使う。形容詞を使わないというより、抽象的な形容詞を使わないということかと思う。つまり「赤いクルマ」とは書くけど、「イカしたクルマ」とは書かない。

ヘミングウェイは、もともとタイトな文体だった訳ではないらしい。

文章を書くことが大好きだった10代のアーネストは、高校卒業後に『カンザスシティ・スター誌』の記者になる。その次にトロントの『スター・ウィークリー誌』の特派員になり、その2社で文章修行を積んでいる。

アーネスト、「ちょー最高な○○」とか「めっちゃイケてる××」みたいな大袈裟な形容詞を使うんじゃねーよ!いつも言ってるだろ!」

「はい、これからは気をつけます。。。」

てな感じで、新人記者時代に形容詞への警戒心を強く植え付けられている。

パリへの移住後も、エズラ・パウンド大先生から厳しい指導を受けた。

「おまえの短編ときたら、形容詞だらけでダメダメだ!形容詞を信じるな!形容詞を憎め!もっと単純に書け!」

「もう形容詞なんて懲り懲りです、金輪際使いません!」

このように、ヘミングウェイの文体は後天的に獲得したものと言える。もちろん、シンプルを欲する嗜好があった上でのことだが。

私の想像だが、ヘミングウェイは「形容詞を極力削った端的な文章を書くぞ」と常に心がけていたわけではないと思う。文体に細かいルールを作ると筆が走らなくなってしまうので、おそらくは自由に書いて後で推敲していたのだろう。

ここで素朴な疑問、

形容詞は悪なのか?

これは好みの問題もあって、素材そのものの良さを生かしたシンプルな料理より、こってりソースがかかった濃い料理に惹かれる人もいるだろう。その手の舌が馬鹿な人(汚い言葉を使ってゴメンナサイ)にとっては、ヘミングウェイの小説はあっさりしすぎで物足りないかもしれない。

個人的には、形容詞を省いた文章の方が「上」と思っている。Less is more.がその理由。何でも盛って大袈裟に話す人って、逆に退屈だし、信用できないでしょ。

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