「オカマ野郎の母親」 アーネスト・ヘミングウェイ

癖の強い邦題が付いているが、原題はThe Mother of Queen。Queenは女装者のことらしく、女性らしいゲイを表現するときに使うスラングのようだ。(微妙なニュアンスはわからないし、時代によっても違ってくるかもしれない)

充分な金を持っていながら、母親の墓地代を支払わず、借金も返さない。いい加減なことを言っては不実をつづけ、見栄ばかり張るゲイの闘牛士の話である。確かに人としては間違っているのだが、オカマかどうかはまったく別の話であり、それらを混同して罵倒している感がある。この話の主人公がオカマでなければならない必然性がないのだ。ヘミングウェイはまったくの想像で小説を書くタイプではないので、このゲイにはモデルがいたのかもしれない。つまり、知り合いに大嫌いなオカマがいたのだろう。

あるいは、そもそもオカマが大嫌いだった!?

ヘミングウェイは、子どもの頃にピンク色のドレスを着させられ、女の子のように育てられている。母グレースは息子でなく本当は娘が欲しかった、というのがその理由らしい。(可哀想なアーネスト・・・) しかも女の子の名前をつけて呼んでいたというから、ちょっと精神的に問題のある母親だったのかもしれない。そうした幼少時代のトラウマが、ゲイへの過剰なアレルギー反応を呼び起こしたとも考えられる。

著者は、「簡単な質問」や「海の変化」をはじめ同性愛を扱った作品を割と多く残している。「オカマ野郎の母親」を読んで、「ヘミングウェイは差別主義者だ!」と単純に片付けられない根深い問題がありそうだ。ちなみに母親の葬儀には出席していない。母親を描いた作品もない。(あるかもしれないが、パッと思い浮かばない) 生涯、母親への嫌悪感を抱きつづけていたのかもしれない。

利己的な行動も多い作家だが、情状酌量の余地はあるのかなとも思ったりした。

勝者に報酬はない・キリマンジャロの雪―ヘミングウェイ全短編〈2〉 (新潮文庫)

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