What Do You Do In San Francisco? 著者らしい奇妙なタイトルだが、どことなく相手を卑下するニュアンスがあり、不快な気持ちにさせられる。
この短編の舞台であるアーケイタは、カリフォルニア州北部の町で、現在の人口は約1万6千人。その8割以上が白人で製材業に携わる労働者が多いようだ。
そのアーケイタに引っ越してきた若いビートニクなファミリーの崩壊を、郵便配達夫の目線で描いている。結末を言ってしまえば、妻が別の男を作って出て行ってしまい、残された無職の夫は途方にくれるという話だ。
郵便配達夫は、あの妻は良くない女だから早く忘れてしまうに越したことがないと考える。そのためには仕事に就く必要がある。精を出して働いていれば、余計なことを考えずに済むと。まるで達観しているかのようなこの郵便配達夫も実は20年前に離婚し、その後は二人の子どもたちとほとんど会えていない。
若いビート族風の夫婦、郵便配達夫の夫婦、この二組の男女の別離を、読者は重ねて考えることになる。郵便配達夫は今ではすっかり過去を乗り越え、安定した精神を得ているように思えるが、心の奥底では喪失感や虚無感を隠し持って生きている。
男の方が弱い。辛い過去を新しい出会いで上書きできない。底なしに寂しい話だと感じた。