『白痴が先』 バーナード・マラマッド

原題はIdiots First。『白痴が先』 という邦題が与えられているが、他にもう少しわかりやすいタイトルはなかっただろうかと正直思ってしまった。障害者に不公平な社会への抗議というガッツが伝わってこないし、字面がお世辞にも魅力的とは言えない。作家的な感性が求められる難しい翻訳とは思うが、邦題で損をしている気がする。(こういうこと書くから敵を増やしてしまうのかな)

主人公はメンデルという重病を患った年配男性で、脳に疾患を持つ息子をカリフォルニアの叔父の元へ送り出そうと奔走する。質屋で得た金ではまるで足りず、断られても断られても必死で金策に走りつづける。ギンズバーグという男が、メンデルを諦めさせようと邪魔をしてくる。メンデルは汽車が出発を待つ駅でギンズバーグと取っ組み合いの喧嘩をする。そして勝利し、息子を無事に汽車へと乗せる。

読んでいて苦しくなるようなヘビーな話だ。

ネタバレになるが、ギンズバーグという男はメンデル自身の内なるネガティブな心である。それはもう一人の自分であり、ある意味で死神とも言える。マラマッドは実弟が精神疾患を患っていことから、精神障害者や知的障害者への差別に怒りの感情を持っていて、おそらくそれがこの短編を書く動機となったのだろう。不屈の精神で最後に勝利するという希望的なエンディングが熱い。

「白い自分」と「黒い自分」の格闘という発想自体はそれほど斬新ではないし、ストーリーも捻りが少ない。ただ、やたらと重量感があり、大袈裟かもしれないが読後にクタクタになった。日頃、Youtubeなどの軽いコンテンツに触れているせいか、精神の筋力が衰えていることを痛感した。これって生活習慣病の一種だと思う。メンタルがフニャフニャになってしまわぬよう、たまにはずっしり重い小説を読まないとね。

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