「必要になったら電話をかけて」は没後に発掘された未発表短編だが、かなり感じるものがあった。どのくらい感じるものがあったかというと、壁にもたれてグダァとした感じで読みはじめたが、途中から「キタ!キタ!!」という感じで脳に電流が走り、読み終えた時は前傾姿勢になっていた。(いまひとつ興奮が伝わらないかな)
お互いに愛人のいる夫婦が、思春期の子どもを妻の実家にあずけ、関係の立て直しを図るためカリフォルニアの別荘で過ごす、という切ない話だ。
ふたりの間の距離感。ふたりが口にしない言葉。損なわれてしまったもの。取り戻したいもの。大人の弱さや優しさがゆったりと落ち着いたトーンで描かれていて、中年夫婦の心の機微が手にとるように伝わってきた。
それにしても、少ない言葉でここまで描けるとは。。。ハァーというため息しか出ない感じで、短編一筋に生きてきた作家の力に打ちのめされてしまった。
少し前に書いた「シェフの家」の記事に「もうカーヴァーしか読めない!」と書いたが、その気持ちは今も変わらない。レイモンド・カーヴァーが日本や世界でどのように位置付けられているのかわからないが、もっともっと評価されていい作家だと思う。Wikipediaには、ヘミングウェイやチェーホフと並び称されることも多いとは書いてあるものの、どうにもマイナーなイメージが拭えない。まあ、そういうところが魅力とも言えるのだが。
最後に、
ネタバレを避けるため具体的には書かないが、この短編のエンディングはいただけない。あまりにも軽すぎる。こういう終わり方もあるかもしれないが、それでも何かが足りない。勿体ない。(未発表作品にいろいろ言うのはフェアではないが、どうしても気になったので)
近々、原書でも読むつもりだ。村上春樹氏の翻訳も心地好くて最高だが、カーヴァーが書いたそのままの文に触れてみたい。考えただけでもワクワクする。