『五時四十八分発』 ジョン・チーヴァー

エリートビジネスマンが、一夜限りの関係を持ち、その後すぐに解雇した元秘書ミス・デントにストーキングされる。男はミス・デントを避け続けていたが、仕事が終わる時間にロビーで待ち伏せされ、無視したが後をつけられる。そして顔見知りが何人か乗っている電車内で腹部に銃を突きつけられ…というB級映画のようなミステリー色の強い話だ。ホラーと言ってもいい。原題は『The Five-Forty-Eight』で、物語の舞台となる各駅電車の発車時刻をタイトルにしている。

この『五時四十八分発』は1955年にベンジャミン・フランクリン・マガジン賞を受賞し、本作を収録した短編集『The Stories of John Cheever』はピュリッツァー賞と全米批評家協会賞を受賞している。つまり、暇つぶしに読むミステリーの小品などではない。味わいはエンタメだが、『泳ぐ人』に引けを取らないマスターピースとして米国では圧倒的な評価を得ているそうだ。ミス・デントのヤバいストーカーぶりにハラハラさせられるサスペンスと見せかけつつ、実はエリート男性のサイコパスぶりを巧みに炙り出している。こうした二重構造もあって、お楽しみの読書に終わらない高尚な余韻を読後に残す。

世俗的な題材を扱い、理想の生活が崩れていく悲哀を描くあたりがフィッツジェラルドとよく似ている。正当な後継者と呼ばれていたようで、かなり影響も受けているらしい。「エンタメの皮をかぶった純文学」というか「退屈知らずの深淵さ」というか、そこらへんの料理の手際はあざやかだ。

個人的には、本作のようなスノビズムの匂いがするものはあまり好みではない。飽きることなく一気に読める一級の作品ではあるが、どうしても気取りや線の細さが気になってしまう。例えるなら「恋に落ちて」とかをカラオケで繊細に歌っている中高年男性のような感じかな。いや、違うわ。それとチーヴァーを一緒にしちゃいけない。でも、なんていうか都会の男女の色恋や諍いにまるで興味がないので、「よくそこに関心が向くね?」っていうのが正直な感想だ。

ちなみに、レイモンド・カーヴァーは『列車』(原題:The Train)という『五時四十八分発』の続編を執筆し、敬愛する飲み仲間チーヴァーに捧げている。

ではじまる『列車』はかなり暗い作品ではあるが、カーヴァーらしく骨太で私の好みに合う。こういうことを書くと今度はカーヴァーファンに怒られそうだが、私はお洒落なものに対してアレルギー反応が出てしまう。お洒落なチーヴァーより、お洒落じゃないカーヴァーが性に合う。(「お洒落じゃない」は褒め言葉ね) チーヴァーの『泳ぐ人』は設定が秀逸な超傑作だが、『五時四十八分発』はちょっと口に合わなかった。でも、ページを捲る手が止まらないほど面白いのは間違いないので、皆さんにもぜひ手にとってもらいたい。

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