これまで、このブログで3冊のヘミングウェイ短編集に収められた作品の感想を書いてきた。ほぼすべての短編を取り上げ終えたので、ベスト10を自分なりに選出してみた。個人的な好みが色濃いため、ユニークなランキングになっていると思う。「迷ったらコレを読め!究極のヘミングウェイおすすめ短編!!」などとは口が裂けても言えないが、私のブログを読んでくださっている方には響くのではないかと思ったりもしている。理由を訊かれると困るが…。
1〜3位には熱いコメントを付けている。(自分で熱いと言ってしまう野暮さ)
まあ私なりに気合いを入れて10作品を選んだつもりなので、少しでも参考にしてもらえたら嬉しい。
第10位 『二つの心臓の大きな川』
第9位 『三日吹く風』
第8位 『だれも死にはしない』
第7位 『雨の中の猫』
第6位 『十人のインディアン』
第5位 『世界の首都』
第4位 『戦いの前夜』
第3位 『清潔でとても明るいところ』
深夜のスペイン。耳の聞こえない老人が、カフェのテラスでひとりブランデーのグラスを傾ける。孤独と絶望と虚無を抱える人間にとっては、清潔さと秩序を備えた照明の明るい場所が必要なのだ。社会の冷酷さや横暴さに圧迫された精神に安らぎを与えるために。
終わっている老人の話と見る向きもあるが、私は宗教的な崇高さをこの短編に感じる。
第2位 『僕の父』
『インディアンの村』や『医師とその妻』など自伝色の強いニック・アダムズものには正直あまり惹かれない。少年時代のヘミングウェイは母親を嫌っており、父親にも複雑な思いを抱いていたせいか、作品のトーンにどこか陰湿さを感じるためだ。『僕の父』はせつない話だが、自伝的ではなく、全体的に乾いていて心地好い。この物語を思い出すたびに、胸が締めつけられて苦しくなる。ヘミングウェイが『僕の父』しか短編を残していなかったとしても、私にとっては特別な作家になっていたと思う。
第1位 『蝶々と戦車』
1937年、内戦下のスペインへと連れて行ってくれるタイムマシンのような短編だ。今回の記事を書いていて、私はヘミングウェイのスペイン内戦ものが好きなのだと改めて気づいた。あたかもそこに居るかのように、戦渦のマドリッドの喧騒に包まれる。全盛期の作家だけが醸成できる臨場感と躍動感に、いつ読んでも魅了されてしまう。いつか、この短編の舞台である酒場チコーテへ行きたい。
以上。
『キリマンジャロの雪』や『殺し屋』が入っていないじゃないか、と思われたかもしれないが、私の中では候補にさえ上がらなかった。『白い象のような山並み』『汽車の旅』『世馴れた男』『密告』『ポーター』『ワイオミングのワイン』などはギリギリまで迷った。
笑ったり、泣いたり、驚いたり、スカッとしたり、感動したり、とは異なる次元の読書体験をヘミングウェイの短編から幾度も得てきた。おかしがたいようなある種の清澄な甘美さ、といってもいい。これからも再読の度にそれを得るのだと思う。