「最後の扉を閉めて」 トルーマン・カポーティ

カポーティはあの独特の容姿のために、先入観をもって見られやすい作家だと思う。読まずに敬遠している方も多いのではないだろうか。

短編の1つか2つでいいので、ぜひ読んでほしい。

私が偉そうに評価するのも何だが、クオリティでは知る限り全作家中トップだと思う。村上春樹氏も柴田元幸氏との雑誌MONKYの対談で、一番巧い短編作家はカポーティと語っていた(気がする)。

デビュー当初から驚異的に巧いのだから、こういう人のことを天才と呼ぶのだろう。

「最後の扉を閉めて」は、親しい女性への裏切りを繰り返し、孤独へと向かっていく男の話だ。女性たちからの嫌われ方にリアリティがあり、読書中にちょっと毛が逆立つような感覚に襲われたりもした。後半は、男か女かよくわからない見知らぬ誰から電話が何度も掛かってくる。「知ってるくせに、長い付き合いじゃないか」と相手は言う。ここらあたりの描写は、お得意のホラー調。得体の知れない不安感が見事に醸成されている。

恍惚を覚えるほどに流麗な文章で、まったく過不足がなく、退屈させられることもなく、宝石のように綺麗な比喩を散りばめつつ物語は進んでゆく。

「あー、もー、面白いわ」と唸っている自分がいる。完成度がやたら高い。読み始めて1ページ目で完全に物語に引き込まれる。どうしてこんなに巧いのさ、と思わず体を捻ってしまった。

が、しかし、である。

この物語が向かっている目的地はまたしても・・・そう、暗闇なのだ。

「カポちゃん、どうしてそっちに行くのさ?そっちには何もないよ。闇の中では何も見えないんだから」と思わず嘆いてみる。それでも主人公は、閉ざされた部屋の中で、孤独な闇と親和していく。暗闇行きネガティブ号は、今回も進路を変えてはくれないのだ。

これが、カポーティ。そう、これがカポーティなのだ。

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