『ダイヤモンドのギター』 トルーマン・カポーティ

原題はA Diamond Guitar。

懲役99年、読み書きや算数ができ一目置かれている50歳のベテラン囚人。模造ダイヤをちりばめたギターを持って入ってきたブロンドの新入り囚人。

個性のまるで違うこの二人の脱獄を描いた短編である。

若い囚人が入所した日からすぐに二人は打ち解け合い、労務の合間は常に一緒に過ごしていた。ある日、若い囚人が脱獄のプランを語りはじめた…

といった感じのヘミングウェイが書きそうな話で、未読の方は男臭いハードボイルドを想像するだろう。

正直な感想を書いてもよろしいでしょうか?

誰に許可を求めているのかわからないが、歯に衣着せぬ本音こそこのブログの信条なので遠慮なしに書くこととする。

この若者は今でいうサイコパスであり、表面的な人を惹きつける魅力を備えているものの、心に温度がなく残酷だ。嘘をつくことに対しても良心の呵責が1ミリもない。周囲には心が通い合っているかのように映る二人だが、実はベテラン囚人がこの若者に騙されているだけの話である。このベテラン囚人は過去に殺人まで犯しており、それなりに世の中の裏側も見てきているはずだ。しかも他の囚人たちより知性が高く、哲学的な人物として描かれている。それなのに、この若者に騙されて転がされてしまう。

そんなことあり得るだろうか?

はっきり言わせてもらうと、キャラクターにリアリティが無い。サイコパスとわかっていながら、それでもこの若者に惹かれているのであれば、それはあまりにもキャラ設定が甘すぎるという気がする。

脱獄という粗暴な行為と流れるようなロマンチックな文体の相性の悪さもあってか、どうにも私にはしっくりこなかった。カポーティにはフィットしない素材ではないだろうか。世の中では評価の高い短編かもしれないが、「カポさん、緩いぜ」が私の率直な感想だ。

この『ダイヤモンドのギター』が収録されている短編集の表題作『ティファニーで朝食を』を個人的にあまり好きではないが、カポーティと相性の良い素材だとは思う。相性が良いと、基本的に物事は上手く運ぶ。似合うことをするって、成功の重要な条件なのかなと改めて思ったりした。

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