『クリスマスの思い出』 トルーマン・カポーティ

はじめに書いておくが、今回の記事は誰の賛同も得られないだろう。

原題は、A Christmas Memory。半世紀以上前に書かれた、著者の少年時代の思い出を下地にした短編だ。あらすじは割愛。

クリスマスプレゼントとして大切な人に送りたくなるような小説。

郷愁を誘う、あたたかくてどこまでも優しい小説。

そうかもしれない、でもね…

ネット上には、「この季節になると読み返したくなる愛おしい名作」とか「忘れていたイノセントを思い出して、思わず涙が出た」とか「何が本当の幸せかを教えてくれる特別な物語」とか大絶賛のレビューしかない。

その気持ちはわかるし、否定するつもりもない。でもね…

ブーイング覚悟で敢えて言うなら、器用でセンスの良い天才作家がさらっと書き上げたスケッチと感じてしまった。カポーティらしく、神経質なまでに汚れや雑味を取り除いていった推敲の結晶なのかもしれない。でもね、カポーティほどの技量があれば、こういう綺麗な物語は汗をかかずに書けてしまう気がするのだ。

正直な感想としては、思い出を美化しているだけの重量のない話と感じてしまった。(言い過ぎかな)

穿った見方という自覚はある。今回読んだ村上春樹氏の翻訳がカポーティに合っていないという気もしている。「これ以上ない最良の組み合わせだろ!」という人が多いとは思うが、流麗な文体を柔らかな文体でコーティングしているようで、ややミルキーというか、甘味が強いというか、同系統の味が合わさって濃くなってしまっていると私は感じた。

的外れなことばかり書いているのではないかと少し不安になってきた。正直、今回の記事はアップしようか迷った。今の私の気分のせいで読み誤ったのかもしれないという自分への疑念もある。

読書って水物で難しい。

次は原作を読もうと思う。もしかしたら、真逆の感想になるかもしれない。

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