『The Battler』 アーネスト・ヘミングウェイ

『The Battler』は初期の短編『ファイター』の原題。以前に『ファイター』の記事はアップしているが、今回は原書を読んでの感想。

『The Battler』はNick Adamsを主人公にした短編の一つで、ミシガンを舞台に出会いや経験を通して成長していく若者の様子が描かれている。あらすじにはここでは触れず、原書のインプレッションを書こうと思う。

英語力には自信がないので戯言として聞いていただきたいのだが、思っていた以上に翻訳版とのムードの違いを感じた。日本語と英語の元々の匂いの差があるとは思うが、全体的に肌触りは異なる。一言でいうなら、原書は一文一文がビビッドで野太い。ヘミングウェイの文体は端正でどこか繊細という先入観があったためか、その線の太さは意外に思えた。音楽も映画も絵画もスポーツも骨太好みの自分には嬉しい発見と言える。

それともう一つ。

ヘミングウェイの小説では、一つの物語の中で同じ人物の呼び方をいろいろ書き分けたりする。例えば、「鈴木さん」という登場人物がいたとして、初めは「黒いスーツの男」と呼び、途中から「鈴木さん」と呼び、最後は「太った中年男」と呼ぶ、のように意図的に変化させる。そうした細部から、読者は説明されていないニュアンスを読み取ることができる。そのあたりが原書だとより鮮明に感じられた。執拗なまでに同じ言葉を繰り返す手法も、読みながら自然と気づくことができた。「これがヘミングウェイの文体か」という感じだ。

それと、原書を読むと白人と黒人の上下関係が会話の中に練り込まれていることがわかる。この短編が書かれたは1920年代。当時のアメリカに於ける人種差別を意識して読むと、またちょっと作品の色彩が変わってくるのではないだろうか。

ルールを破った若いニックがレールから外れ、アウトサイダーたちと触れ合う中で、知らなかった世界を垣間見る。そしてまた元のレールへと戻っていく。そうしたイニシエーションの物語の中に、ヘミングウェイの育ちの良さやピュアネスが滲み出ている。無骨さとデリカシーを併せ持つ『The Battler』は、模写したくなるような魅力的な短編だと思う。

これからも、じっくりと慈しむように原書を読んでいこうと思う。

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