「悪い仲間」は昭和28年の芥川賞受賞作。
大学部予科に進学して初めての夏に、主人公の「僕」はいわゆる不良である藤井高麗彦に出会う。そして強い憧れの念を抱き、模倣に溺れていく。友だちの倉田もその憧れの渦に巻き込む。ふたりにとって藤井高麗彦の存在が大きく膨らみ、生活のすべてになっていく。競い合うようにエスカレートしていく悪事。その先にあるのは退学、病気、破滅。最後、「僕」は藤井と倉田を裏切るかたちで普通の学生へ戻ろうと決める。
という話だ。
この藤井高麗彦のモデルになったのは、作家の古山高麗雄(ふるやまこまお)で、安岡章太郎が受験に失敗した時期に遊び歩いた浪人仲間である。遠藤周作からは「競馬の師匠」と呼ばれていた人らしい。
安岡章太郎は中学時代からかなり素行が悪かったようで、「悪い仲間」は自伝的な要素が濃いのだろう。全編に劣等感や脱力感が漂っていて、遣る瀬ないような、ほろ苦いような独特の優しさがある。
ブレーキを踏めず、破滅へと突き進む恐怖。この短編は太平洋戦争のメタファーとも言われるが、逃げることの大切さを伝えている。
これまで安岡章太郎の作風には何となくクネクネと骨のない印象を抱いていたが、「悪い仲間」で見方が変わった。しなやかで繊細で、ちょっと愛おしさすら感じた。