「失われた血の塩の贈り物」 アリステア・マクラウド

今の気分に合わなかったのだろうか。情景描写が過多に感じられ、読書中に何度も“じりじり”としてしまった。

冒頭から、物語はなかなか先へと進まない。詩的な情景描写にかなりのボリュームを割いており、著者の頭の中に広がる光景を余すところなく読者に伝えようという真面目さと我慢強さが伝わってくる。三度の飯より活字が好きという人にとっては至福の読書になるかもしれないが、残念ながら私は苦戦した。近頃、マクラウド作品を読んでいて、息が詰まるような苦しさを覚えることが多くなってきた。心のゆとりが無いのだろうか。

「失われた血の塩の贈り物」という邦題だが、「の」が2つ並ぶために、やや難解な印象を受ける。これは、The Lost Salt Gift of Bloodという係り受けのわかりにくい原題を忠実に訳したためだろう。

1974年の作品である。マクラウドの他の短編と比べて、全体的にひっそりとしており、辛くてやるせない。

語り手は、離婚した妻の両親(つまり義理の両親)に一人息子を預けている中年男だ。元妻は別の男と再婚したが、交通事故で即死している。残された息子は義理の両親が育てており、語り手である中年男(息子の実父)は、4000キロも離れた町に暮らしている。そして、この息子は彼が父親であることを知らされていない。

気が滅入るような暗い設定だ。

この短編、面白くないという訳ではない。読後、感傷的な気分に浸り、人生について考えさせられた。ただ、一定のトーンのまま情景描写が続くため、じれったくなってくる。(ここは読み手の性格によるので、噛みしめるよう味わった方もいるだろう) 徒歩で一歩一歩ゆっくりと進んでいくような感じだ。忙しない現代社会に暮らしていると、この速度感はどうにも焦れったく思えてしまう。丁寧に描写することで現実の持つ重量感を醸成できているのかもしれないが、そこに重ったるさや退屈さを感じてしまうのだ。

エンターテイメント性が不足しているという意味ではない。キャッチーで派手な表現やスペクタクルを求めているのではなく、長時間そこにいるのが苦にならない心地好さが不足しているように思えた。(あくまで個人的な感想)

変な例えになるが、ディズニーランドのアトラクションで私が好きなのは、イッツ・ア・スモール・ワールドとピーターパンだ。刺激や興奮は低いが、居心地が良いため、まったく退屈しない。逆になんちゃらマウンテンみたいな派手なやつは退屈だ。何を言いたいのかわからなくなってきたが、つまり「失われた血の塩の贈り物」の情景描写があまり心地好いものでなく、結果として辛い読書になったということだ。相性の問題かもしれない。

この作品を評価する人は多いとは思う。おそらく、ゆとりある落ち着いた大人の方だろう。(そういう人になりたい、でもなれない気がする・・・) 名作と言ってもおかしくないクオリティの高い作品だと思う。ただ、私は楽しめなかった。

灰色の輝ける贈り物 (新潮クレスト・ブックス)

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