「秋に」 アリステア・マクラウド

著者のマクラウドは残念なことに2014年に亡くなっているが、とても遅筆で寡作な作家だった。大学教授という本職があり、空いた時間にコツコツ書いていたそうだ。思いつきや勢いで書いていないためか、どの短編もしっかりと地に足が着いていて、ずっしり重量感がある。11月の終わりにマクラウドの短編「灰色の輝ける贈り物」について、「素晴らしい短編だ。今年読んだ中でベストかもしれない」と書いたが、今回も同じような気持ちになった。

「秋に」(In the Fall)は、1973年に世に出たマクラウドの初期の短編だ。

物語は14歳の息子によって語られる。

冬の間、父は300キロ離れた土地へ出稼ぎに行くため長く家を空ける。その前に、母は老いた馬のスコットを売ってしまいたいと考えている。もうすっかり役立たずだし、餌代だって馬鹿にならない。毎日の世話も負担であり、餌だけ食べて死なれでもしたらかなわない、というのが理由だ。もうひと冬だけ置いてやってもいいだろう、と父は言う。うちは馬の保養所じゃない、6人の子どもがいてやることが山積み、と母はつっけんどんに返す。父にとってスコットは、母との結婚前から献身的に接してくれた特別な存在だ。

母は、家畜商を家に呼んだ。口が悪く、どこまでも下品な男だ。スコットと離れるのは辛いが、その現実を受け入れる父。しかし、10歳の弟は、家族同然のスコットを売ってしまうことを受け入れられない。家畜商の汚れたトラックに乗せられ、遠ざかっていくスコット。怒り狂った弟は、母親が世話をしている鶏の小屋へと向かう。そして・・・

予想しない意外な結末だった。マクラウド作品らしく真面目で厚みのある話なのだが、終盤の展開はショッキングだ。そしてラスト11行は、崇高なほどに美しい。

語り手の14歳の少年は、この出来事を通して心の深みを獲得していく。例えスコットがトラックに乗るのを拒んでも、状況は本質的に何も変わらないことを理解する。清く正しいだけでは、この世の中を生きてはいけない。家が貧乏で、父が出稼ぎに行かなければならず、スコットを手放すしか選択肢はない。嫌悪感を覚えつつも、それが大人として生きることだと知る。

現実の厳しさの中で6人の子を育てる母。現実を受け入れて愛馬を手放す父。現実を拒絶して激昂する無垢な弟。

そうした家族たちを見つめる14歳の目。それは著者自身の繊細で柔らかな感性そのものだと思う。

灰色の輝ける贈り物 (新潮クレスト・ブックス)

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