「ファミリー・アフェア」 村上春樹

多くの人が好きな村上春樹作品として挙げるだけあって、純粋に面白く、読後も心に残る。著者の特徴とも言える全体を覆うようなダークなメタファーはなく(私が気づいていないだけであるのかもしれないが)、愛おしくなるような温かみがある。笑いの要素も多く、異色作と呼びたくなる短編だ。

前述した通り理屈抜きに面白いのだが、村上春樹色は薄い。何度も出てくる「やれやれ」という呟きがなければ、別の作家の短編にさえ思える。毛色の異なるのに人気が高い。作家にとってはちょっと複雑で、素直に喜べないかもしれない。

ファミリー・アフェア(family affair)は内輪の問題とか家庭内の事情といった意味で、この作品では「僕」「僕の妹」「妹の婚約者」という3人のやりとりが描かれている。

とにかく偏狭(度量が狭く、考えが偏っている)な兄のキャラが立っている。何を話していても、いちいち捻くれたユーモアで返してくる。爽やかさや男らしさがないため、あきれてしまう女性も少なくないだろう。その絶妙な皮肉に、私はジョン・レノンを思い出した。(ジョン・レノン批判ではないので誤解のないように)

乱暴にまとめると、妹に育ちの良い優等生の婚約者ができたことで、同士のように通じ合っていた兄妹の距離感が変化していくという話だ。兄へのシンパシィを抱きつつも、妹はまともな大人として生きるため、酒と女にだらしない兄を咎めまくる。まるで母親のように。兄は自身の偏狭さを認めつつも、「なるようになるさ」と楽天的に振る舞う。

はじめに書いたが、「ファミリー・アフェア」は他の村上春樹作品と違い、謎に支配されていないため、モヤモヤせずに読める。(メタファーを解読していくのも読書の楽しみではあるが)

一人ひとりが自分の思ったように生きればいいのさ、という著者のインディビジュアリズムが根底にあるように思えるが、このままではいずれ立ち行かなくなるというメタ認知も同時に感じさせる。そういう意味ではせつない話ではあるが、根底に兄妹愛が感じられて読後感は悪くない。

電話がダイヤル式だったり、ブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」を聞きながら歯を磨くとか、ディスコで知り合った女子大生とか、車のクラッチがガタガタしたとか、シンディ・ローパーが店のBGMで流れているとか、80年代を感じさせる描写が多く、時代の空気も楽しめた。(フリオ・イグレシアスを糞扱いしている箇所があるのだが、こういう尖った書き方をするとはちょっと驚き)

この記事、何だかまとまりが悪いな。とりあえずアップしたけれど、近いうちに書き直すかもしれない。。。

「象の消滅」 短篇選集 1980-1991

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