「十の本当のこと」 ミランダ・ジュライ

コミカルでパンキッシュで軽妙ないつものタッチで書かれているが、何度か途中で緊張が走った。ただ面白いだけでなく、カミソリのような切り込み方をする瞬間がある。そして、段々とこれは傑作かもしれないと直感めいたものが湧き上がってきた。気分転換くらいのつもりで軽くてに手に取り、タイトルに惹かれて何気なく読み始めた一篇であったが、予想を超えて良かった。フラナリー・オコナーとフィッツジェラルドという名手の後に読んだのだが、それでも充分に楽しむことができた。

語り手の「わたし」は、会計士リックの秘書を勤める女性。会計士といっても、案件はすべて安価な下請けに流し、マージンだけで利益を出すブローカーだ。「わたし」は、オフィスによく電話をかけてくるリックの妻エレンに興味を抱いている。しかし、面識はないため顔は知らない。エレンが裁縫の教室に通い始めることを知り、「わたし」も同じクラスに入る。授業が終わった後、「わたし」はエレンの夫の秘書であることを打ち明ける。そして、「わたし」のアパートへと誘う・・・

物語の展開が絶妙で面白いのだが、トリッキーさで気を引くのではなく、タブーなゾーンへ自然に入っていく危険な素直さがある。隙の無い赤裸々さというか、痛々しいのにスタイリッシュで、繊細さと悪意が同居していて、まとめるのは難しいが特有の語り口が個性そのものという感じだ。ミランダ・ジュライについては、実はまったく響いてこない短編も自分には多い。個性の強い作家にありがちな、文体が前面に出てきて物語に入っていけない時がある。でも、「十の本当のこと」は冒頭から周波数が合った感じで楽しめた。

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