『乗せてくれてありがとう』は短編の女王と呼ばれるアリス・マンローのデビュー短編集に収められた一篇で、原題はThanks for the Ride。結論から言うと、この短編を読むだけでも短編集を購入する価値は充分、読み応えのある力強い作品だと感じた。
マンローが生まれ育ったのはカナダのオンタリオ州。風光明媚なイメージがあるが、本人が言うには密造酒作りが行われ、売春婦の住むスラムのような小さな町らしい。そういう湿気った土地で、父親の事業の破綻など子どもの頃からいろいろと苦労を抱えて暮らしていたそうだ。
『乗せてくれてありがとう』には、都会育ちの男の子たちと彼らにナンパされる田舎の女の子たちが描かれている。題名から想起されるような明るい話ではない。私はマンローをよく知らないので、この短編が著者らしい作風であるのかはわからないが、フラナリー・オコナーの影響を受けているのは間違いないだろう。つまりロマンチックさや爽やかさはまるでなく、ゴツっとしていて毒素が強い。(良い意味で) 皆が目を背けるようなことを赤裸々に書くため、悪意と凶暴さに充ちている。(良い意味でね)
この短編を読み終えた時、私は思わず呟いた。
かっこいいな、マンロー。
ストーリーについては細かく説明しないが、簡単に言ってしまえば、愛想なしのウェイトレスが働くくたびれたレストランで、下衆な都会の男の子が、ひねくれた田舎娘に渋々声をかけ、決して愉快ではない経験をするという話だ。
ナンパする側の男の子の一人称で、女の子の家庭環境の異様さや性格の歪みが語られる。とにかく、この女の子が抱え込む負の力が妙に心に残る。暇潰しの読書を求めている人には向かないアクの強さを持った短編だと思う。
それにしても、最後の一行が鮮やかだ。恍惚感をくれるほどキマっている。さすがmaster of the contemporary short storyだ。
マンローはかっこいい。