「沈黙」 アリス・マンロー

「沈黙」(原題:Silence)は、短編の女王と呼ばれるアリス・マンロー円熟期の作品。マンローはカナダ人初のノーベル文学賞受賞者(2013年)で、受賞したその年に作家を引退。現在、90歳である。

バンクーバーの人気キャスターとなったジュリエットという女性を主人公にした短編の一つで、大人の女性の揺れる心が本作では描かれている。

漁に出た夫が、突然の嵐で帰らぬ人となる。ひとり娘のペネロペは20歳のときに家を出て、それから一度も会っていない。失踪の理由もわからぬまま、どこでどう暮らしているかも知らぬまま年月は過ぎてゆく。一年に一度、簡素なバースデーカードだけがジュリエットのもとへ届く。悩みを相談できる気心知れた女ともだちもこの世を去った。ある日、ばったり娘の昔の友人と遭遇し、ペネロペに子どもがいて遠く離れた土地で暮らしていることを知る。

というストーリーの「沈黙」だが、スペインの巨匠であるペドロ・アルモドバルによって映画化されている。予告を見る限り、小説から立ち上がるイメージと違和感がない。

マンローの短編は、派手なドラマは起きないが、底知れない人生の悲哀が女性ならではの繊細な感性としなやかなタッチで描かれている。

「沈黙」が収録された短編集「ジュリエット」の後書きによると、ヒラリー・クリントンがアリス・マンローの熱心な愛読者らしい。「夫の不倫騒動や数々のスキャンダルを乗り越えてきたヒラリーが本書を愛読書として挙げるのは、なんとなくわかる気がする」と書かれていて、思わず笑ってしまった。

物悲しいけれど瑞々しくて、ハッピーエンドとは言えないけれど後味は悪くない。大人の女性の諦念がアンニュイな余韻を残す。独特の雰囲気があるため、もしかしたら意外と好き嫌いが分かれる作風かもしれない。

女性の方は、生きる上で重要な作家になる可能性があるのでぜひご一読を。

性差でものを見ない方が良いとは思うが、世の男性には響くかな、どうだろう? マンローは私にとって特別な作家とは言えないが、人は誰でも痛みを抱えながら生きているのだな、と感じられたのは収穫だった。

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