「赤い月、廃駅の上に」 有栖川有栖

「赤い月、廃駅の上に」は本格推理作家による怪奇短編集の表題作だ。この短編集は、鉄道にまつわる話10篇で構成された異色作とのこと。どうやら鉄道怪談と呼ぶらしい。私は推理小説もホラー小説もほとんど読んだことがない。鉄道にも興味がなく、有栖川有栖氏の本を手に取るのも初めて。長男の勧めがあり、「短編ならちょっと読んでみるわ」と手にした次第だ。大きな声では言えないが、著者が男性か女性かも知らなかった。無知すぎるだろ!という喝が入りそうだが、未知なるゾーンへ果敢にチャレンジするガッツに免じてお許しいただきたい。だれに謝っているのだろう。。。

正直なところ、本格推理にはやや偏見を持っていた。練りに練ったトリック、緻密なプロット、凄まじいまでの創作熱には凄みを覚えるばかりだが、自分にはまったく縁のない世界だと思っていた。頭脳派の探偵がロジカルに謎を解いていくという設定にどうしてもスノッブさを感じてしまい、これまでずっと敬遠してきた。

「赤い月、廃駅の上に」は本格推理ではないが、「日本のエラリー・クィーン」と呼ばれた推理作家の書いたホラーものである。ラギッド好みの自分には合うはずがないと決めてかかっていた。

でも、読まず嫌いは良くないという思いもあり、重い腰を上げて文庫本を開いた。

17歳の不登校の少年がクロスバイクで旅をし、町外れの廃駅で一夜を過ごすという話。スプラッター的な残酷描写はなく、うらめしやの幽霊も出てこない。怪奇小説なのでトリックや推理もない。姿の見えない何者かが迫ってくる不気味さ。現実がシームレスに異界とつながっているかのような不思議なムードでじわりと怖がらせる。

夜遅い時間に読んだため、ゾクゾクと何度か寒気を覚えたが、描写に過剰さがなく落ち着いて読むことができた。

地域に伝わる鉄道忌避(きひ:嫌って避けること)の伝説がどこまで事実をベースにしているのかはわからないが、作り話とは言い切れない重みを感じたりもした。神社のお守りやお札の力にもリアリティが感じられた。

読みはじめてすぐに感じたのは、文体がイメージと違って骨太ということ。もっと線の細い神経質な文章を予想していたので、個人的な好みにフィットしていて心地好く読むことができた。もしかしたら意外と相性が良いかも。

同短編集に最後に収録された「途中下車」という作品の感想もアップしたので、そちらの記事も是非。

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