「もうひとつだけ」 レイモンド・カーヴァー

vs 妻・娘の大喧嘩を描いた短編で、原題はOne More Thing。

妻が仕事を終えて帰宅すると、夫が飲んだくれてキッチンで15歳の娘をののしっている。妻はコートも脱がずに飛んでいき、たった今ここから消えてほしい!と言う。夫はこんな気違い病院のようなところ出て行ってやる!と怒鳴り、この家を気違い病院にした原因はあなたでしょ!と妻は言い返す。娘も、原因はすべてお父さんの頭の中にある!と怒りをぶちまける。

目も当てられないような家族の修羅場を描いた短編だが、ラストの一文が秀逸。カフェで読んでいたのだが、思わず声に出して笑ってしまった。

キレやすくて、幼稚で、けっして口にしてはいけない言葉を連発し、モノにあたり、すべてをメチャクチャにしてしまう男。ここまでのリアルを見せつけられると、やはりカーヴァーは信用できる作家だなと感じる。格好つけたとこがひとつもない。

誰だって情けなかったり、みっともなかったり、弱かったり、馬鹿なことしたり、感情が爆発してしまったりするでしょ?(あえて言わないだけであなただって) それをさらけ出している人を見ると、自分だけじゃないのかと元気になれるし、ラクな気持ちになれる。最近、いろいろと行き詰まっていたので読んでよかった。

…こういうかたちで、いつもカーヴァーに助けられている。

愛について語るときに我々の語ること (村上春樹翻訳ライブラリー)

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