「キュー植物園」はヴァージニア・ウルフによる1919年の短編。キュー植物園はロンドン南西部に実在し、キューガーデンとも呼ばれる。ユネスコ世界遺産にも登録された世界一有名な植物園で、日本から贈られた桜も植樹されているそうだ
蘊蓄(うんちく)はここまで。
この短編は、キュー植物園を歩く人たちの「意識の流れ」を詩的に描いている。こんな説明じゃ何も伝わらないと思うが、伝えようにもどう伝えたらよいのかわからない。あらすじ云々でなく、読むことでしか知りようのない作家なのだ。
まったく予備知識を持たない方のために一応説明すると、ヴァージニア・ウルフは1882年生まれのイギリスを代表する作家。ウルフなんて野性味ある名前だが、細身の女性なのでお間違いなく。簡単に要約できない波乱万丈な人生を送っており、詳しいことはWikipediaをご覧いただければと思う。
ヴァージニア・ウルフの小説は、お世辞にもわかりやすいとは言えない。ナイーブで、断片的で、どう解釈したらよいのかも悩ましい。普通の小説とはまるで違っているのだ。私は難解な作品は苦手なのだが、なぜか嫌いではない。嫌いになれない。
ウルフは神経症を患い、現実と狂気を行き来していた。性的虐待、自殺未遂、同性愛など、危なっかしいセンシティビティをもって人生の荒波にもまれ、、、なんというか普通の小説を書かなくて当然という感じがする。説明するのが難しいのだが(ヴァージニア・ウルフについて端的に説明できる人はいるのだろうか?)、「私は芸術家よ」といった鼻につく感じや作為的なところがなくて、とてもピュアな印象を受ける。
とにかく、個人的には好きな作家だ。読書に単純明快な娯楽性を求めている人には向いていないが、人生に深く関わる一遍を求めいている人にはぜひ一読をお勧めたい。
余談だが、ヴァージニア・ウルフはヘミングウェイの「白い象のような山並み」を賞賛していたらしい。一回り以上もヘミングウェイは年下だが、ナイーヴな感受性で通じるものがあったのかな。ちょっと感慨深い逸話だ。