『異類婚姻譚』 本谷有希子

うん、これは良い。思わずテンションが上がった。

単行本で約百ページほどの中編で、芥川賞受賞作(2015年)である。この年の選考委員の中で村上龍氏が◎を付け、積極的に本作を推していた。下記が同氏の評言。

「技術がしっかりしていて、ディテールにも無理がなく、好感が持てる作品だった。」

「読者の側に立ち、考え抜かれた小説だとわたしは判断し、受賞作として推した。」

しなやかな文体で、自然と読者を物語へと引き込む。とても読みやすい。多分、左脳でなく右脳で絶妙にバランスをとりながら書き進めていくタイプの作家かなと感じた。村上龍氏は「考え抜かれた」と評しているが、個人的には主題について熟考した印象はあまり抱かなかった。話の展開はどちらかといえば感覚的であるが、文章表現に関してはかなり推敲を重ねるタイプではないだろうか。(本作しか読んでいないので的外れかも)

『異類婚姻譚』はどういう話かというと…

子供もなく職にも就かず、安楽な結婚生活を送る専業主婦の私は、ある日、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気付く。「俺は家では何も考えたくない男だ。」と宣言する夫は大量の揚げものづくりに熱中し、いつの間にか夫婦の輪郭が混じりあって…。

植物のように受け身で芯のない旦那と暮らすうちに妻の顔が夫に似てくる。やがて二人の区別ができなくなり、同化してしまう。何でもない日常が、いつの間にか見慣れぬ世界へと変わっていく不気味さ。だんだんと人間の形を失っていく怖さ。

ネタバレ注意

結局のところ二人は離婚。旦那は元の妻と復縁し、生気を取り戻す。愛しさと蔑みの両価性を描いているが、最後は蔑みが勝って妻は自分を取り戻すという話かと。(合ってますか?) 猫を山に捨てる。そして、旦那を山に捨てる、そのあたりをホラー的(猟奇的)に解釈することもできそうだが、そこまでヤバい匂いはしないかな。

自慢じゃないが、この中編を読むまで本谷有希子氏のことを何一つ知らなかった。読後に、劇作家、演出家、女優、声優、さらにはラジオの『オールナイトニッポン』のパーソナリティまでつとめた有名人と知った。予備知識ゼロのおかげで、余計なバイアスがかからず、純粋に楽しむことができた。

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