「こういうのはどう?」 カーヴァーの他の作品同様に奇妙なタイトルだが、原題は How About This ?(これ、どう?)なので、ほぼ忠実な邦題と言える。
それにしても随分と久しぶりにカーヴァーを読んだ気がする。このブログで、今年は一篇もカーヴァー作品を取り上げていない。
この短編は、都会を離れて田舎暮らしをするべきか迷っている夫婦の話だ。苦境に立たされ、人生の選択を迫られている32歳の男の心情がリアルに描かれている。二人の気持ちの重さや揺れが不穏さを伴って伝わってくる。やはり巧いなと唸らされる。
側転や逆立ちなどアクロバティックな動きをする妻が「こういうのはどう?」 と言う場面はかなり印象的。凄みすら感じる。
なぜ、最後のマッチに火はつかなかったのか。どうして手が震えたのか。夫が決断したことは、田舎暮らしの取りやめではなく、妻との関係の解消についてなのか。それを敏感に感じ取った妻が、アクロバティックな動きをすることで、どうにか持ち堪えようという意思を示したのだろうか。
不安な示唆に富んでいて、何度も読み返したくなる短編だ。
人生のピンチ、先の見えない鬱々した気持ちを小説の題材にするのは、ある意味でハートが強い。普通、気が滅入ることからは逃げたいものだが、カーヴァーはそこに浸って小説を書く。私にはとてもできそうもない。カーヴァーはチェーホフに特別な思いを抱いていたようだが、それもよくわかる気がした。