短編小説に関する考察 ジャイムズ・エルロイ

「ベスト・アメリカン・ミステリ」(J・エルロイ&O・ペンズラー編)の冒頭に掲載されているエルロイの序文が凄いので、抜粋して紹介したい。「短編小説とは何か」をいかにもエルロイらしくほとばしるように解説しているのだが、かなり内容は鋭く濃いと感じた。小説でなく序文であるにもかかわらず、手加減を知らない乱射感の強い表現で、言っていることを整理するのが大変なのだが、本質をグリップしてぶつけてくる感じが堪らなくかっこいい。

エルロイを知らない方もいるかと思うが、アメリカ文学界の狂犬と呼ばれる犯罪小説作家で・・・、ちょっと簡単に説明できないほど壮絶な人生を送っており、独自の文体で計り知れないほどの影響力を持っている。(日本の作家でももろに影響を受けている人が何人もいる) あとはWikipediaで。

では、短編小説に関する序文の抜粋をいくつか。

「短編小説は長編小説の縮小版である。啓示のために圧縮されているのだ。その特徴は本質の顕現と、極限における人間の生である。小型化はむずかしい。部品の代わりに言葉を扱う腕時計職人だ。」

「短編小説は物語の筋と人物描写を釣り合わせ、プロットの範囲を制限する。短編小説の形式はもっと単純に構想して圧縮することを長編小説家に教えてくれる。短編小説の形式はもっと確実に率直に考えることをわたしに教えてくれた。短編小説の形式は読者の観点を受け入れ、プロットへの信頼度を減少させることを教えてくれた。短編小説の形式は登場人物たちを際立たせるために、主題面で簡潔さを評価して活用することを教えてくれた。」

「だだっ広い領域からの一時的解放であり、領域の入門書である。建築家や大規模なエンジニアに教える腕時計職人の作業である。」

「簡潔。正確。本質を抽出しろ、さもなければ、読者の嘲笑に晒されろ。物語で刺せ、啓示でたたけ、プロットで破滅させろ。言語で衰弱することはできない。対話でおろおろすることはできない。無駄な牧歌を大目に見ることはできない。」

「優れた短編小説は諸君の全力疾走であり、一気に読むカクテルだ。強く効き、すぐに終わる。熱を起こし、終わっても、あとに残る。その圧縮された形式は諸君の役割をさらに相互的に作用させる。」

読み手の脳にダイレクトに作用するような凶暴な表現ばかりだが、心地好いでしょ。私の中で、エルロイとジム・トンプソンはクライムノヴェルのトップに位置しており、別格と呼べる存在だ。このブログでも、彼らの作品を今後取り上げていきたいと思う。

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