「エリオット夫妻」 アーネスト・ヘミングウェイ

純潔を守りつづけてきた25歳の夫と急に老けはじめた40歳の妻の、ちょっと奇妙な夫婦生活を描いている。

原題は「Mr. And Mrs. Elliot」。このタイトルから感じられるように、離れた場所から二人を眺めているような醒めた陰鬱さが漂う。

ちょっと奇妙な夫婦生活と書いたが、二人は子作りに励むがなかなかうまくいかず、妻は仲の良い女友だちを招いて三人暮らしがはじまる。女性二人は大きな中世風のベッドで一緒に寝て、夫は自分の部屋で一人で詩作と白ワインに没頭する。

物語は淡々と語られ、妻の同性愛指向と年齢差による溝が静かに深まっていくような悲観的な印象を受ける。

あきらめてしまったような薄幸感が残るものの、「雨の中の猫」や「兵士の故郷」、「インディアンの村」などとほぼ同時期に書かれただけあってクオリティは相当に高いと感じる。

「エリオット夫妻」は自伝的短編のニック・アダムスものではないが、当時のヘミングウェイは8つ年上のハドリーと結婚しており、フランスへ渡った点なども一致する。それにしても、可能性を追いかけて躍進する若者が書くような題材ではない。20代の男性の多くは、夫婦間の不信感や倦怠に興味を示さないだろう。ヘミングウェイが抱えていた心の暗さや重さを想像すると、どうにもせつなくなってくる。

われらの時代・男だけの世界 (新潮文庫―ヘミングウェイ全短編)

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