「踊る小人」 村上春樹

村上春樹という作家を知る上で軽視できない、とても重要な短編だと思う。

そして、怖い。何度目の再読かわからないが、今回これまでで最も恐怖を味わった。グロテスクな描写の話ではなく、人間の価値を左右する重いテーマが隠れていることを感じて怖くなった。示唆に富み、イマジネーションを掻き立てられ、生き方について考えさせられる。小説の力って凄い、と唸ってしまう。

踊りの得意な小人と象工場で働く工員の話。こう書くと、シュール(現実を超越した)なファンタジーに思えるが、シュールという印象は受けないし、ファンタジックとも感じない。うまく表現できないが、不思議とリアリティがある。

「踊る小人」に関する学術論文などを読むと、この短編が発表された1980年代半ばの社会情勢や村上春樹のエッセイから、ソ連との関連性が指摘されている。作中に出てくる「革命」はロシア革命のことではないかと。主人公の「僕」が勤める完全に分業化された工場は、ソ連の国有施設を連想させるとも。

なるほど。著者にインスピレーションを与えたのは確かにソ連だったかもしれないが、私は普遍的な話として読んだ。個人的には、背景として織り込まれた出来事(歴史上の事件など)は、村上春樹作品に於いてそれほど重要ではないような気がする。(誤解しないでほしいが、深い解析や研究を否定してはいない)

「悪魔に魂を売る」という言葉があるが、脅しに負けて、あるい苦痛や苦労から逃がれたくて、「自己(魂)」を捨ててしまったら、そこで人は終わってしまう。もう、二度と元に戻ることはできない。単純過ぎるかもしれないが、私はこの短編をそういったロックなメッセージとして受け止めた。

「踊る小人」は世間ではそれほど評価されていない(注目されていない)ようだが、村上春樹という作家を構成する本質的な要素をいくつも含む短編ではないかと思う。

未読の方は、すぐ読みましょう!

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