久しぶりにサイコ野郎がキレまくるホラー小説を読んだ。雰囲気重視の思わせぶりな怪奇小説とは違い、読書中に汗が出るほどにフィジカルで、俗っぽくて、骨太。ある意味で健康的だ。
夫が勤務先から帰宅すると、離婚したいという妻からの置き手紙があった。自分が依頼した弁護士との電話。妻に依頼された弁護士からの電話。そして、レストランで弁護士同席の離婚協議が始まる。
と、まあアメリカではとくに珍しくもない話なのだが、レストランに着いてからの展開がキレまくっている。給仕係がいきなり発狂し、血が飛び散りまくるスプラッタ・ホラーと化すのだ。地獄への容赦ない突き落とし方がいかにもキングらしい。
狂った給仕は躊躇なく包丁を振りまわし、店内は血の海となる。弁護士も顔を斬られて殺された。殺人鬼に目をつけられた夫婦は、細い傘一本で必死に対抗する。壮絶な殺戮劇と並行するかたちで、増幅する夫婦間の憎悪も描かれている。これ以上ないほど悍ましい修羅場である。
著者曰く、頭のいかれた給仕係よりも離婚手続きを進める夫婦の方が遥かに狂っているそうだ。・・・なるほど。
ラストでこの夫は殺人鬼の日常を想像し、自分自身の心情と重ね合わせる。このあたりの描写に人生の悲哀が漂う。
結論としては、理屈抜きに面白かった。B級映画を一本観終えたような満腹感を覚えた。
アメリカでは、オバマ大統領から文化勲章を授与されるなど、超売れっ子作家から一段も二段もランクを上げた印象のキングだが、権威には興味がなさそうなので文豪扱いに居心地の悪さを感じているのではないだろうか。
万人に勧められる作風ではないが、悪趣味と片付けられない魅力に溢れている。
