「一一三号村」 アンソニー・ドーア

「一一三号村」 アンソニー・ドーア

俗な表現になるが、文学ってかっこいいと思わせてくれるような思慮深い短編だ。

文化庁が全国の16歳以上3000人に実施した世論調査によると、一ヶ月に一冊も本を読まない人は47.5%に上り、調査のたびに割合は増えているそう。さらには世界の先進国30カ国の中で、日本人の読書量はワースト2位とのこと。うーん、カッコわるい。

アメリカでは読書を重視した教育に注力しているようで、その成果なのか分厚い長編小説が何冊もベストセラーに入っていたりする。アンソニー・ドーアのような一流の作家が生まれてくるのも、そうした背景があるのかもしれない。

「一一三号村」(原題はVillage 113)はドーアらしいとても真面目な短編で、小説というより長めの詩という印象を受けた。

舞台は、ダムの建設により消えゆく中国の寒村。異なる立場の母と息子を通して、村が水底に沈むまでの日々を静かに穏やかに描いている。

この短編は「メモリー・ウォール」というさまざまな場所と時代に生きる人たちの記憶をテーマにした短編集に収められており、O・ヘンリー賞を受賞している。「一一三号村」は30代に書かれた短編だが、その静謐な文体は威厳すら感じさせる。他の作品同様に、几帳面で我慢強い人柄がにじみ出ている。お世辞にも華があるとは言えないが、一部の文学好きや評論家に絶賛されるのはよくわかる。

水没する村に暮らす一人の女性。彼女のひとり息子はダムの保安員をしている。村人の間で、ダム建設に反対する者を彼が殺しているという恐ろしい噂が流れる。息子を信じつつも、どこか疑いを拭いきれず複雑な思いを抱える母。やがて、ほとんどの村人は荷物をまとめて村を出ていく・・・

なんとも遣る瀬ない話である。ラスト近くで、手紙と蛍を入れたビンを夜の川に流す印象的なシーンがあり、濁りのない美しい光景が頭の中に広がる。それは、まるで祈りのようである。

やや凝りすぎで情報過多という著者の個性はこの作品にも感じたが、読みにくいとか、理解しにくいということはなかった。もう少し、ストーリーにパンチがあっても良い気がしたが、そこはリアリティを優先してあえて抑えているのかもしれない。

良し悪しは抜きにして、エンターテインメント性は低い。キャッチーで刺激的な情報に溢れている今の世の中で、こうした文学は生き残れるのだろうか。

本嫌いな日本では難しいだろうな。。。

 

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