「貝を集める人」 アンソニー・ドーア

原題はThe Shell Collector。原題でピンと来た方もいると思うが、リリー・フランキー主演で映画化された「シェル・コレクター」の原作である。この短編に惚れ込んだ坪田義史監督が、舞台をケニアから沖縄に変えて映像化した。予告を観ただけだが、原作の持つ海への畏怖の念と安らぎの感覚が前面に出ていた。アンソニー・ドーアの短編をまさか日本人が、しかも日本を舞台に映画化したことには驚いた。マーチン・スコセッシが「沈黙」を撮ったことより、ずっと意外に思えた。文学の映画化は、かなりのチャンレンジだと思う。自分が映画監督なら絶対にしないだろう。文芸作品として既に大成功しているものを映像作品として成功させなければならない、合格点の高い難題をわざわざ自分に課そうとは思わない。心情的にはわからなくもないが。ちなみに「沈黙」は、遠藤周作の原作があまりに強烈だったので(クリスチャンになろうと思ったくらい)、映画の方は最後まで違和感が拭えなかった。良いとか悪いでなく、客観的に観ることができず物語に入っていくことができなかった。

「貝を集める人」は、2002年にアメリカで出版された短編集The Shell Collectorに収められれている短編で、アンソニー・ドーアのデビュー作である。いきなりO・ヘンリー賞、バーンズ&ノーブル・ディスカバー賞、ローマ賞、ニューヨーク公共図書館ヤング・ライオン賞を受賞。2015年には「すべての見えない光」でピューリッツァー賞フィクション部門を受賞しており、ベストセラー作家の仲間入りをしている。ドーアは、1972年生まれのアメリカ人だ。

「貝を集める人」のあらすじを書くのは難しい。

貝に魅了された老いた盲目の貝類学者が、ケニア沖の孤島で盲導犬と貝を拾って生きる。彼の元へ迷い込んできた女性の病が貝の猛毒でたまたま治ったことから、多くの人々が彼の力を求めて島に押し寄せてくる。そして、自分が貝の猛毒をくらい、死の淵を彷徨う。

といった展開の読めない物語だ。筆致は淡々としており、静かで深い印象を残す。娯楽性は低く、詩的な文体という感じだ。耳慣れない言葉がたくさん出てくるので、鮮やかにイメージが立ち上がるというわけにはなかなか行かない。無知だからと言われればそれまでだが、ページ数以上に読むのに時間が掛かる。感受性と想像力を働かせながら再読するとまったく違った景色が見えてくる気もする。簡潔で完成度が高いなどと評されているが、若い作家らしい情報量の多さ(ドーアが20代の時の作品なので)を感じた。何か(something)がある作品という直感するものはあったので、近いうちに再読しようと思う。

シェル・コレクター (新潮クレスト・ブックス)

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