「無頭の鷹」 トルーマン・カポーティ

いかにもカポーティという感じで、完全に内側に向かって閉じている。闇との親和性が高く(闇と仲良し)、孤独な静寂が作品全体を覆っている。文章は艶やかでとても美しい。

あらすじは・・・

ある冬の日にヴィンセントが勤める画廊に、自分の描いた絵を買ってほしいと奇妙な女の子が訪ねてくる。画廊のオーナーは不在だったが、ヴィンセントは個人的に30ドルで絵を買い取った。頭部を切断された女性と頭の無い鷹を描いた荒々しいその絵をヴィンセントは気に入り、女の子にも興味を抱いた。再開した女の子を自分の住まいへと連れて行き、同棲生活をはじめる。しかし、彼女の奇行に耐え切れず、ヴィンセントは家から追い出してしまう・・・

鏡をモチーフにして多層的に物語が組み立てられており、どこまでが現実であるのか、もしかするとすべてがヴィンセントの見ている幻覚なのか?そのあたりはミステリアス。

完成度の高さを感じるが、見事にダークだ。

私個人の話で恐縮だが、保育園に通っていた頃にお絵かきの時間があり、洞窟の絵を描いて母親にひどく叱られた経験がある。自分では迫力のある探検の絵(インディジョーンズ的な)と思っていたので、周囲の大人たちが「すごい才能だ!」と褒めてくれるものと期待していた。しかし、見せた瞬間に母親の顔色は変わり、超弩級の雷が落ちてきた。「どうして、こんな暗いものを描いたの!他の子はロボットとかライオンなのに!!!」 ぶたれはしなかったものの、かなりヘヴィーではあった。その時、私は子供ながらにこう悟った。

明るいものは善であり、暗いものは悪である。朗らかなものは人を笑顔にし、毒々しいものは人を怒らせる。ポジティブなものは愛され、ネガティブなものは忌み嫌われると。

そうした躾もあって、暗い話には今でも拒絶反応が出てしまう。カポーティの文章は本当に美しいと思うがやっぱり苦手、これが私の素直な感想だ。

夜の樹 (新潮文庫)

TOP