「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」 村上春樹

36歳の多崎つくるが、「絶縁の理由」を解き明かすため、名古屋やフィンランドへ学生時代の友人たちを訪ねる、というちょっと探偵小説的な愉しみ方のできる魅力的な作品だ。とてもfluidで読みやすい。

謎はそれなりに多いが、ファンタジーの要素は少ない現実的な物語だ。

英語版のタイトルはColorless Tsukuru Tazaki and His Years of Pilgrimage。登場人物たちの名前に色の漢字が入っているという設定なので、翻訳に苦労するタイプの作品かと思う。

率直な感想として、かなりハマれた。もともとチャンドラー好きなので、謎を解くために旅をするという設定には心躍るものがあった。途中で本を置くこともなく、ほぼ一気に読み終えた。(これほど滑らかな文章で、退屈させない気遣いもあり、スリリングに物語が展開すると中断するのは難しい)

毎度のことだが巧いなと思う。巧いことに気づかないくらい巧い。長編なのにダレないし、枯れないし、雑にもならない。60代に入ってからの作品であるのに、感性はしなやかで瑞々しく、中高年男性にありがちな独善的なところもない。多分、日頃から新しいものを受け入れているから、フレッシュさをキープできているのだろう。

この作品は、「僕は」でなく「つくるは」という三人称で書かれている。それもあってか、著者の他の作品より少し乾いた感じがあって個人的には心地好かった。

いくつかの謎を回収しないまま物語が閉じてしまうため、中途半端でモヤモヤするといった批判は多く、本作は推理小説という声も少なくない。実際、突飛とも言えるようなユニークな推理で、犯人探しをしている人たちもかなりいる。

私の場合、エッセンスからあまり離れたくないので、今回も謎解きはパスしたい。

他の人はどう読んだかわからないが、読書中に何度か泣いてしまった。とくにフィンランドからの帰り道のシーンでは、主人公と同化して胸が締めつけられた。沙羅のキャラクターとセリフも秀逸。人生を導く女神のようだ。(あくまで私の解釈ね。裏のある悪女という見方をする人も多いかと)

灰田の存在や緑川のエピソードは、おそらくシロの死と繋がってくるのだろう。個人的には灰田の章を丸々削除して短編小説にした方が良い気がしたが、どうだろう。すっきりシンプルにはなるが、重層感のない単純な話になってしまうかな。うーん、長編のプロットって難しい。

まとめとしては、読書中は90点。読後は80点というとこかな。

エラそーに点数をつけてしまった。。。

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