「呪われた腕」 トマス・ハーディ

「呪われた腕」は、19世紀のイギリスの作家トマス・ハーディの短編。「村上柴田翻訳堂」という文言に惹かれて随分前に買った「トマス・ハーディ傑作選」だが、本棚に収めたまま何年も手に取らずにいた。「呪われた腕」という邦題だけで、明るい話でも爽やかな話でもないのがわかるし、オカルト嫌いの自分には向かない気がしていた。(だったら買わなきゃいいのに)19世紀の作家なので古臭くて堅苦しいだろうという先入観もあった。

食わず嫌いはダメだ、という気持ちで気合いを入れてページを捲った。

予想していたより、ずっと読みやすくて楽しめた。陰気な話ではあるのだが、話の展開がスムーズで、風景描写がやさしくて、気がつけば一気に読み終えていた。現代語訳の取っつきやすさもあって、古典にありがちなゴツゴツした読みにくさもまったく感じなかった。

一人の子持ちの中年女性が美しい若妻を呪う、という怖い話だ。(こういうの、お好きですか?私は苦手です。。。)

捨てられた女の激しい嫉妬心が、若妻の腕に痣となって顕われる。若妻は美が損なわれる不安に襲われ、あらゆる治療を試すものの、腕は醜くなるばかり。信頼できるまじない師に助けを求めると、「縛り首になった男の首に、その腕を押し付けるのだよ」と恐ろしい治療法を口にする。若妻は尻込みするが、意を決して…

という話だ。ダークだが、その語り口の滑らかさもあって、カポーティを読むときに似た心地好さを覚えた。(現代語訳のおかげかな)  恋愛やら嫉妬やらの話には基本的に関心はないが、それでも苦もなく読むことができた。ドラマを盛り上げるための偶然が多く、思わず笑いそうになったが、そうした作為性はそれほど気にならない。派手なオチまでついていて、思った以上に娯楽性が強いという印象を受けた。ただ、ガチャガチャした感じでなく静かで内向的な雰囲気が漂っていて、イギリスの作家らしさも感じる。

巻末に、村上春樹と柴田元幸の「解説セッション」という対談が収録されている。文学に関する基礎知識がない私には理解できない部分も少なくなかったが、きっと鋭くて深いことを言っているのだろうって感じで楽しめた。

運命とか呪術とか超自然的なものを信じている人、その手が好きな人が読むとハマる短編かもしれない。私はハマるまで行かないが、きっとまた読む気がする。意を決して手に取って良かった。(大袈裟…)

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