2013年初出の『夏の雷鳴』 は、著者の愛車であるハーレーダビッドソン ソフテイルへのエレジーと言えるロマンチックでメランコリックな短編。キングは、「そのソフテイルでカンザス州を走った時に人生最高の素敵な黄昏を見た」と語っている。思い出が詰まった昔の相棒という感じだろうか。
この短編の舞台は、核戦争による破滅後の世界。こうした終末ものには、「心地よい破壊」(cosy catastrophe)と呼ばれる典型がある。「ほぼほぼ人類絶滅の状況下で、主人公たちはどうにかこうにか奇跡的に逃げ延び、小さなコミュニティを形成し、僅かな希望の光が差し込む」ってなパターンが多い。(そういう映画、何本も観たことあるでしょ?) ネタバレになってしまうが、スティーヴン・キングはそうしたハッピーエンドを用意してはくれない。精神的にキツいバッドエンドが待っている。一般ウケは良くない気もするが、個人的には、未練がましさがなく、そこにある種の清涼感を覚えた。
人間も動物も核戦争による放射能でほぼ死滅したアメリカ。主人公はバーモント州に住む40代後半の男ロビンスン。妻と娘はすでに犠牲になっており、野良犬が唯一の心の慰めだった。隣人の老人はどうにか生き残っていたが、放射線中毒の症状が悪化し、苦しみから逃れるため銃での自死を選ぶ。愛犬も瀕死状態で時間の問題。ロビンスン自身の体にも徐々に症状が現れはじめる。彼の最後の願いは、愛車ハーレーダビッドソン FXDF(通称ファットボブ)のバッテリーを交換し、もう1度だけ疾走することだった。

というストーリー。タイトル『夏の雷鳴』(原題:summer thunder)の「雷鳴」は、ハーレーの排気音のことだ。この短編に登場する古いファットボブは、日本国内でも中古で手に入れることができる。メンテはいろいろ必要とは思うが、だいたい150万円程度。極太なファットタイヤを装着し、どっしりとした迫力がある。
核戦争とハーレーと野良犬、『夏の雷鳴』はアメリカンで粗野な魅力に溢れた短編だ。

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