「永遠への長い道」 カート・ヴォネガット

「カート・ヴォネガット全短編4」のセクション4ロマンスに収められた作品で、とっても柔らかな桃色の短編だ。

ヴォネガットらしくもないし、耐え難いほどに甘いし、普通なら酷評したくなるところだが、不思議とどこか捨てがたい魅力を持っている。酷評どころかマスターピースと絶賛する声や、著者のベストワンに挙げる声まである。

この異色の短編、筋書きは至ってシンプルだ。

砲兵隊を無断で抜け出してきた若い男が、結婚を目前に控えた幼なじみの女性の家を予告なしに訪ねる。二人が対面するのは一年振り。あまりに突然の訪問に困惑する女性。男は、拒む彼女を散歩へと誘い出し、道すがら愛の告白をする。

というsugaryでsweetな話だ。ヴォネガット自身のプロポーズの実話がベースになっているらしく、読書中、どうにも気恥ずかしいようなむず痒いような気持ちにさせられた。

原題はLong Walk to Foreverでなんとも甘ったるいのだが、このタイトルは初出の婦人向け雑誌の編集部が考えたものらしく、元々はHell to Get Along Withだったそう。私の語学力では頼りないが、恋する地獄的なニュアンスだろうか。それにしてもタイトルひとつで全く違うトーンを帯びる。ヴォネガットとしては婦人誌のオーダーに応えなければならないと思いつつも、いくら何でもこの話は甘過ぎると感じ、自嘲気味にシニカルなタイトルを付けたのだろうか。。。

驚いたことに映画化までされており、一部の人にはスペシャルな作品として響いているようだ。

打算的な結婚に愛の力が打ち勝つというハッピーエンドの物語ではあるのだが、一人の女性とその婚約者の人生をめちゃくちゃに狂わしてしまう男の話ともとれる。軍律違反も犯しており、大人になれない未熟さもそこに感じる。

愛の肯定と受け取るか、身勝手な行動と受け取るか、そこが好き嫌いの別れ目かもしれない。

TOP